接触皮膚炎人の暮らし

  

                  この4巻下だけのために5万5千円使いました。

 

 接触[性]皮膚炎は間違いではないらしいけれど。

 いやーかゆい!すべて綿100%身に着けていても、ブラジャーをonシャツにしてゴム

部分くるみパンツをはいて絶対救急車に乗る事態になれない姿でいても、その当たった

ところがてきめんに赤くかぶれている!それと服に当たる腰の上部分が今一番悪い。

シャワーに当たってもかゆい!くっそ寒い土地なのですでにタイツ(綿多めのお高いの

で着圧だったのが災い)が手放せないので腰骨辺りがかゆくなった。これと座業がお股

にも影響があって、ウォシュレットはよほどの時しか使わないようにして2週間経過し

たがあまり変わりがない。粘膜復活には時間がかかるのか、更年期だからもうだめなの

か‥。あちこち痒み用クリームでごまかしているが、この夏はそれで済まなかったので

これ以上悪くなったら結局ステロイドに頼るしかなさそうだ…ステロイドが嫌という

よりちゃんと見てくれずやみくに強い薬を出す皮膚科に行くのが嫌。洗濯は液体の石鹸

洗剤に変えたが効果はまだよくわからない。

 手湿疹に優しいのはウタマロキッチン。以前もお世話になったがつい強力な方に戻し

てしまい、昨年は一年中右手薬指(なぜかそこだけ)が治らなかったのに、ウタマロに

戻したらきれいになった。泡立ちは少ないけれど油もよく落ちるので心配なし。洋服用

洗剤(汚れ落とししかない)や体回りも出して欲しい…。あとお湯を使わないこと。

雪国なので最低温度にして湯沸かし器を使っているが、水ならよりよい。

 シャワー(よくないが氷点下の風呂場で毎日風呂桶洗う気がしない)はきゅっきゅっ

としないと気が済まないので、2度洗いするのが悪そうなのだがやめられないので一日

置き。さすがに本当にひどい時は石鹸(パックスナチュロン)を使わないが‥。どんな

無添加でも液体石鹸は強すぎるとのことなので固形を使っている。シャンプーは断続

的に使っている大島椿オイルシャンプーが一番髪が喜んでいる感じ、ソフトになると

いうか…。熊野油脂の無添加シャンプーも好きだが、きしきしし過ぎて地肌が洗えなく

なるのでこれも断続的に使っている。

 ハンドクリームは10年くらいパックスナチュロン。(さっぱり塗れるのにしっとりが

持続する)ただし今年から乳化しているので(という言い方はおかしくて、もともと

石鹸分を乳化しているのでよく分離していたため、多分それが評判悪くて今はなんと

いえばいいのか、滑らかになっていて)私にはそれが不自然で残念。25年以上前には

ウグイス嬢かと言われながら夏は手袋(当時白しかなかった)を欠かさなかった(超色

白の友達のまねをしただけだが今となっては感謝)のとパックスのおかげで、まあ53歳

で飲食店バイト(かつて)や家事や運転をしている手としては…といい気になって写真

載せたけれど地黒で骨太できめが粗くて血管浮いて、お見苦しいことでした。

 

 

通俗書簡文 十三

  一昨日の月に寒々しいむら雲。今日は皆既月食天王星の食、見られるだろうか。

   

   雇人の逃亡を人に告げる文

 まずお耳に入れなければとさし急ぎ文を参らせます。かねがねごひいきいただいて

おりましたこちらの手代の久助が、一昨日の午後よりお得意先の掛け金を頂戴に差し向

けたところその夜になっても帰って来ません。もっとも今までも怪しい噂は耳に入って

おりましたが、今まで目に立つような不都合をしたことがありませんでしたので大体は

見逃しておりましたので、誠に困ったことだとその夜を明かして、昨日の朝こそはと思

っておりましたがなお音もなく昼過ぎになり、お知りのように多くの雇人を召し使って

おりますので、あの男が先に立ってこのような不出来をいたしますとほかに示しがつき

ませんから密かに事を設けて内々に取り計らうように番頭の忠七に委細を申し含め、

いつも行くという釜屋に車を走らせましたがここにも絶えて影も見せないとか、忠七が

いろいろ問い聞きましたそうですが疑う節もないのでその車で得意先を回って、それと

なく様子を伺いましたところ、掛け金はことごとく取り集められていましたので、さて

これではどこかへ行ったに違いないと、驚きながら戻ってきて告げました。受(保証)

人のところにも忠七をやってかれこれ調べてみましたが、実直な人で嘘を言うことが

ありませんから知らないと言えばどこまでも知らないに間違いなく、心一つで身を隠し

たことは疑いもなくなりました。今さらながら人の心の変わりやすさに開いた口がふさ

がらず、飼い犬になんとやら申すようです。長年の馴染みであり我が子のように思って

おりましたのに金を持ったことからの出来心か、それともかねてより考えていたことな

のかはわかりませんが、ひたすら疑わしく思われます。といっても若気の無分別で行く

先もないことですので、結局は身の振り方がなくて浅ましいことになってしまえばいか

にもいかにも痛ましいことです。罪は罪としてもそれが心にかかりますので、万が一

日頃のご親切に頼って行く方なしに(あなたの)お袖にすがって詫び言のとりなしを

願ってきましたら引き留めてご意見し、こちらに連絡をくださいますでしょうか。そう

しましたら忠七を迎えにやって底なしに(有無を言わさず?)連れ戻すべく、このたび

の過ちはあってもこれまでの勤めぶりの数々がありますのでこちらでは決して見限りま

せん。これほどのことで人一人を捨てものにしてしまうことは忍ばれますので、まだ

下々の者にはこの事態は一つも聞かせておりません。詳しく知っているのは番頭と私だ

けで良人も知って知らぬ顔をしておりますので、その辺をお含みいただいて万が一参上

しましたら心得違いをしないようにおっしゃってくださいませ。三歳児でもない人並み

の大人の男がしたことなので思うところがないわけでもなく、いつまでもこの地にさま

ようような不覚ではないだろうと忠七は言いますが、私は肩揚げの昔を忘れず小さな

子供のままのように思えますので、本当に本当に心配しております。お聞きようによっ

てはお怒りにも触れましょうが遠慮も何もなくお願い申し上げます。親の心子知らずと

いうことはありませんでしょうが、年月使われた主人の心を存じもせず脇道に紛れ込ん

だ困り者のありかを聞くことがありましたらしかるべくお取り計らいくださいますよう

くれぐれもお願いいたします。

   同じ返事

 久助殿が道を外して行方が分からないとのお文を拝見して驚きました。あの真面目で

心優しい人がどうしてそのようなことをと本当のこととは思えず、他の人なら大変不都

合ですねと一言に済ませることができますが、どのような魔がついたのかと悲しくて

たまりません。ともかく何かわけがあるとは思いますので、関係のある筋などに細かく

お問い合わせになれ、どこに隠れて、どちらかへ行ったなどが分かると思います。日頃

馴染みのことでもあり、万が一訪ねてくることがありましたらなおさら、いつもより

もっともっと心がけて、ありかを聞き込むようなことがありましたら直ちにお耳に入れ

て、表ざたにしないで事が済むようにいたしたいと思います。長年の辛抱がこのこと

一つで消えてしまうことは嘆かわしいことです。こちらにまで手厚いお文をくださった

お心を思うとはばかりながら涙がこぼれて、感じ入りました。何事も穏やかに、人目に

立たないようにというお振る舞いの欺(策?)はごもっともだと存じますので、私は特

に伺いませんがひたすらこのことを心掛け、見つけ出しますように努めます。

 

   愛犬の行方が分からなくなったことを友に告げる文

 大変浅ましいことですがお聞きください。昨日の夕方私どもが飼っております赤が、

昼の暑さに大変苦しんでおりましたのでお湯に入れてやると大変快さ気に暴れていまし

たが、いつもの勧工場まで涼みがてら、兄たちと四、五人で遊びに行きましたところ、

横町に高い柳のある門構えのお家をご存じでしょう、あの邸内から耳の垂れた大きな黒

犬が駆け出してきて一声高くうなりかかって、こちらの赤はなりは小さいのに気が強い

ので走りかかってのどを狙いました。兄たちはいつものようにおもしろがって、赤よ

負けるなと言っていましたが私は恐ろしく、あのような大きい犬と赤が戦うなんて、

不器用な私が繻子の袴を縫うよりも難しいことで、どうしたって力が足りないと止める

ように頼みましたが兄たちは聞き入れません。赤は飛びかかっては吠えたて、いつしか

横町から大通りへ追い出して、ちょうどお地蔵様の縁日で植木屋がたくさん出て並んで

いる中を二匹の犬が逃げたり追ったり、呼んでも聞かず、止めるのはさらに耳に入らな

いようで、早足の兄たちがそこここ追いかけましたがとうとう見失ってしまいました。

日頃家への道などはよく教えておりはっきり知っているはずなので迷い犬にはなること

はないから安心して帰れと皆に言われて、私は気になるのは言うまでもありませんが

仕方なくそのまま連れられて戻りました。それを限りに影も見えず、昨夜は寝ずに耳を

立てて、もしや帰らないかと雨戸の掛け金を何度外して見たことか。ついにわからない

まま日が明けて、もし道の横の古井戸に転げ込んでそのままになっているのではと今朝

は下男を促して探しに出しましたがそのような気配もないと帰って来ました。命さえ

あれば道を迷うことはなく、首輪にはっきり飼い主の名を記してありますのでまさか

打ち殺されはしないだろうとは思いますが大変心配で、今人を走らせて三つ四つの新聞

にありかを知らないかという広告を出すことにしました。あなたにお文を出す時など

袱紗に包んで首に結んで時々のお使いに出していたのに、今日は郵便で差し出すことが

何となく心淋しく、憂さが紛れません。このようなことを書き散らかして狂ったかと

思われるでしょうからほかの誰にも言わないでくださいね。

   同じ返事

 翁丸(枕草子)のように罪があって追放されてさえ、行方が分からなくなるのは哀れ

なことですのに、あの愛らしくてものをよく聞き分ける赤がいなくなったとは、どれほ

どお辛いことでしょう。このお文を手に入れて封を開けてまだ最後まで読まないうちに

私の家の裏手にある竹藪の方で犬の声がものすごくして、たくさんの犬が吠え立てる中

に弱ったような声が混じっているのが聞こえたのでお文を放り出して、思わず庭から

駆け出して見に行きましたところ、それは隣家の飼い犬で私の大嫌いな斑の雄犬、ごみ

溜めをあさっては獲物をいつも宿無し犬と争っているいやしいやつです。どうしてこれ

の声を赤の声と聞き違えたのでしょう。あなたが一晩中雨戸を開けたてされたことは

無理もないと思います。仰せの通り首輪をかけておりますので打ち殺される心配はない

でしょうから(待つ以外)何ができましょうか。誰か人知れず見たとたんに可愛いので

耐え難くなって抱いて連れて行ってしまったら大変惜しいことですが、その栄誉から逃

れられずにお布団の上に据えられて、お魚ばかりのお食事に飽きているかもしれません

よ。もう少し経ったら居場所もわかることでしょう、こちらでも出入りの車宿に、若い

者たちがどこへ行ってもそのような犬を見たら連れてくるように、ご褒美は莫大ですよ

と申し置きました。

 

   病気が快復したことを知らせる手紙

 母が病気中はお心にかけていただき、何度もお見舞いをしてくださいましてありがた

く、年寄りのことなので差し込みが激しかった間はこれではおぼつかないのではと親類

一同の頼みの綱が一時は切れかかっておりましたが、人の勧めで世間で名高い人では

ないのですが何某という医師に診察していただいて薬をもらうようになってから不思議

に胸の痛みも薄らぎ、一日一日目立って快方に向かっております。本当に人は天寿とは

いえ病に医者は選ぶものだとこの度のことから利口になったことでした。まだ床には

おりますが手回りの用も足せますし、起き伏しも自由になりましたのでもう回復したと

言っても差し支えないので、お祝いといっても形ばかりのお赤飯だけですが、お心遣い

いただいた方々様にお礼を申し上げたく、明日の昼過ぎにこちらにお車を寄せていただ

けましたらありがたく、くれぐれもお待ちしております。

   同じ返事

 お母上様ご全快のお祝いに明日のお招きをいただきまして嬉しいことはもちろん、

あなた様の親孝行にひたすら感じ入りました。今こそお話しできますが、一時はご病人

のお顔とあなた様のお顔を見比べて物も言えずに泣いてしまうようでしたので、誰も

もうご回復されるとは思いもよらず、大切なお方が空しくなってしまったら、残された

あなた様のお嘆きだけが特に心配でした。霜も凍る寒の夜中、裏の井戸で水を浴びて

までの思いのご孝行もあの容態ではと首をかしげましたがご病人はもとより、あなたが

いたわしいと思っておりましたがそれは凡庸な私たちの考えで、何某先生とは聞いた

こともありませんでしたが、そのお医者様からよいお薬ををいただいて薄紙をはぐよう

に(よくなった)と聞いて一重に親孝行のいたす(技)、諸人の力ではないと思いま

す。明日のお席には何を置いても必ずお伺いいたします。ご配膳のお手伝いを勤めさせ

ていただきたいので(席は)内輪の方に置いてくださいませ。

  

   東京へ着いた知らせを故郷の親に

 今四日午後三時にこの地にことなく着きました。お含めの通り停車場から車を雇い、

こちらの伯母様の元まであっという間に飛んできて少しもまごつくことはありませんで

したのでご安心ください。お土産の品々に伯母様は大喜びされて、何々はどうしたって

国元のものがよい、東京にも似たものはなくもないが、味わいが格別に違ってこれほど

おいしくないのだと一人で引き寄せて召し上がりました。この地に着いたことをちゃん

とお知らせしなさいと促され、一人娘に一人旅を初めてさせた親心はお前が思うような

ものではなくて、こちらの空ばかり打ち眺めて心配している毎日なのだから一時延びれ

ば一時の親不孝だとおっしゃってこの巻紙も封筒も伯母様から頂きました。まだ行李も

解いていなかったので(手紙を書くために)その縄を緩めるため小刀をお借りしようと

しましたらこの子は何をするというのか、文書く紙ならこの宿にもあるのだから他人

行儀など打ち捨てなさいと、お机の引き出しから出してくださって自ら墨も磨ってくだ

さいました。この家にいる間は我が家の子なのだから隔て心など持たないようにと、

とても懐かしげにおっしゃってくださいます。お写真で見たのとは違って物腰はお母様

のようです。初めて会ったいとこたちもみないい人たちでかれこれと世話をしてくれ、

入るべき学校のことなどを心配してくれます。本当に私は井の中の蛙で、ここに来て

いとこたちのお話を聞きますと皆とてもお利口でなんでもよく知っていますし、私より

はるかに年下の人でも学はよほど上のように思われます。東京の人すべてがこのような

利口者なのか、それとも伯母様親子がとりわけて利発なのかわかりませんが、とにかく

も今までとは心得を改めて十分勉強に努めます。わざわざこの地に出していただいた

ご恩返しができるようにまたお文はゆっくり差し上げますが、無事着いたお知らせかた

がた今日思ったことをしたためました。そのうち近辺のお友達へもお文を出しますが、

もし訪ねてくることがあったら無事に着いたとお話しください。おはなむけ(餞別)を

くださった方々へもよろしくお伝えくださいませ。

   同じ返事

百里の道も下駄ばきで(?)と聞くこの頃、もはや牛馬に踏まれることのない成人の

お前を手放したからといって気がかりもないはずですが、長年手元に置き慣れて一晩も

泊りに出したこともなかった名残でみっともなくも淋しくて夜も眠れません。無事着い

たという文を見て大いに安心しました。その地の姉上はこちらの気立てとは違って、

万事抜け目なくて思慮深く、無類に親切ですが、気短で怒りっぽいところがあります。

かねて申したようにお前が心を練りさえすればこれは一つの修業となり、身のための薬

となることでしょう。いとこたちにも気軽に親しんで田舎者、偏屈者などといわれない

ように心がけなさい。といって打ち解けすぎて喧嘩などしては長く同居できませんから

全てに思案して振る舞うようになさい。父上が言うには、都は華美を尊ぶ習わしなの

で、定めし伯母のところの人たちも華奢で風流なお稽古事などいろいろ習っているだろ

うが、ゆくゆくは田舎に帰って婿を取る者が琴や胡弓まで習わなくても済むのだから、

もしそのような勧めがあっても断るようにとくれぐれもの仰せでした。夜のものを一通

りと糸の入った着物三枚を汽車の荷物にして送りましたのでお手元に届くと思います。

おまえの上京の様子を見た隣家の娘が急にうらやましくなったらしく近々出立するとの

こと、もしもそちらに行くことがあったらその時また文を出すのでこの度はここで。

通俗書簡文 十二

   書物の借用を頼む文

 毎日雨がちで困りますね。お母様が血の道など起こしてはいませんか。いつもこのよ

うな天気を悩ましく思っていらっしゃいますのでどうしているかご案じ申し上げます。

こちらの父もとかく目の悩みがよろしくなく、といって痛むというのではないですが、

ものを見るのに霧がかかったようではっきりせず、外出がかなわない上に目を使うこと

ができないので一日の長いこと十月のように暮らし侘びておりますので、人様がお出で

になってくださったらそれに紛れていくらかはおもしろそうな素振りをしていますが

そうでないと一人居間に籠って柱に寄りかかったままものも言わず、そばで見ていても

身がやせるような思いです。少しは慰めになるかと普段あまり好まないのに、ありあわ

せの小説などを読み聞かせましたらことのほか気に入りまして、気ままな批評などを

するようになり、さらに珍しいものはないかと注文が出るようになりました。しかし私

はご存じの通りこのようなことにとんと不慣れですので、この頃どのようなおもしろい

ものが出ているのか、それとも古いもので何が名高いのかなどはさらにさらにわかりま

せん。同じ(ことをするなら)お気にかなうようなものを読み聞かせたく、あなた様は

もとよりお好きですしお兄様がお集めしているものもずいぶん多いと聞いております。

あまりに勝手ですが、できるだけ丁寧に拝見しますのでなにか選んでいただいて拝借

願えましたらありがたく、例の昔気質の父ですからなるべく艶やかでないものが願わし

いです。遠慮のない申し出ですがお許しくださいませ。

   同じ返事

 お使いにてのお文拝見いたしました。とてもとてもたやすいことです。こちらの手元

のものがお慰めになるのでしたらこの上もない喜びです。仰せの通りお父上様に聞いて

いただくには兄の好みとは違う、武張った(勇ましく硬い)ものがよろしいでしょう

ね。昔のものから今のものまで取り揃えて十種とりあえずお使いに渡します。誠に私

たちでさえ気の紛れない雨の日に、お目が悪くてお引きこもりになっておりましたら

どれほど難儀なことでしょう。傍らでのご介抱もさぞかしお心苦しいことと思います。

お医者様はどなたですか、あまり長く同じご様子でしたら試みに変えてみてはどうでし

ょう。このようなことは申し上げにくいものですが、ご心配されているので(お勧めし

ます)。私の兄の知人で、このほど西洋からお帰りになった医学士がおり、眼科専門で

とても熱心な人ですので世間の評判もよろしいと聞いております。もしお見せになるの

でしたらと書き添えておきます。とかくおふさぎがちなのでしたら一両日中に伺って、

変わった人が変わったお話しでも聞かせましょうと兄たちも申しております。私も伺う

べきなのですが雨に降りこめられてなかなか立ち出で難く、ご無沙汰していますがよろ

しくお伝えくださいませ。母は仰せの通りいつもの持病で籠っていますのでただただ

よろしくお伝えくださいとのことです。

 

   庭園の観覧をお願いする文

 一夜ごとの雨にますます春の景色らしくなってきました。こちらの垣根の内でさえ、

桜や柳が色を帯びてきて、昨日かえった蛙の子が小溝の流れで声を立てるのも意味あり

げです。ましてや吉野初瀬をひとところに集めた松の木がくれは(?)嵐山の面影を

映していることでしょう、下行く水に大堰川の名が趣深く、この頃のおぼろ月の夜船を

浮かべた新御殿のお庭の様子をはるかに思って憧れる心にとめどがありません。まだ

従二井様の下屋敷と申さず、かつての京屋の豪奢な庭であった頃、私はまだ蝶々髷も

結えない振り分け髪の幼さでしたが、伯母があちらにいささかのご縁があってしばしば

伴われて一夜を花の影で明かしたことがありました。月の残った明け方、あの柴橋を踏

み渡ろうとして転んだことも思い出し、さまざま忘れ難いところです。今はあなた様が

ご奉公されて朝夕にお立ち馴らされているとのこと、どのようなご縁がと宿世を不思議

に思えて、お許しのないお垣根の内を思いをあきらめようと思っていましたが、もし

お手引きがあって昔の夢を繰り返すことができましたらとこの頃毎日思っています。

ご無理なお願いを申し上げますが、ご主人方がいらっしゃらないお暇なとき、庭園から

のご用事を承り、それを手掛かりに伺うことはできないでしょうか。お難しかったら

竹林の影だけでも拝見できたらと思うのですが、うぐいすがどのように鳴いているのか

ととても恋しいのです。

   同じ返事

 ご本宅にいた頃は何かと病みがちで長くはご奉公も勤まらないかと思われましたが、

姫君様のお供でこちらの新御殿に移ってからは心軽やかに、気も爽やかになって昨日の

私ではないようになったのは、一重にこのお庭のたまものだと一人かしこまって喜んで

いるところに昨日のお手紙にこまごまとあったご縁を思うと、どれほど恋しいことでし

ょう。その山のたたずまいや水の流れは元のままではありませんで、いろいろ作り改め

られてはおりますのでご覧になったら涙の種になるかもしれませんが、塩釜のうら淋し

さも、河原の院のすさまじさもありませんから一晩お泊りにいらっしゃいませ。お年に

似合わず思いやり深い姫君ですのでお文のことをこれこれとお話ししましたところ、

本宅からのお客がない時は私に憚らずいつでもご案内なさいと大変心安いお許しが出ま

した。明日から三日の間は何もなくのどかですので、お心次第にお出かけくださいます

よう、花盛りになりますとまた園遊会やなにやらとものうるさくなってきますので、

今の内がよいとお持ちしております。

 

   留守番を頼む文

 かねてお話し申し上げました大磯行きが明日と取り決まりましたので、お留守番を

お願いしたく、お取り計らいをお願いいたします。弟の竹三が明後日まで留守番する

つもりでいますが例の気軽で急にどこへ行ってしまうかわかりませんし、そうでなくて

も三日後には学校が始まって寄宿舎に帰りますので、とてもこの人は当てにならずただ

あなた様をのみ頼っております。先日私がいない間にかび臭いものを引き出して、驚く

ほどきれいにしてくださるとおっしゃいましたが、それではかえって恐れ入りますので

ただここで寝泊まりしてくださり、老婢にお指図をして下さったら幾重にもありがたい

ことです。お暇乞いに伺っていろいろお願い申し上げなければいけませんのに明日一番

の汽車でと忙しいことになり、旅慣れないものでうろたえて心急くばかりです。ほかな

らぬ伯母様に儀式ばってもと自分で理由を作って、失礼極まりないお文でのお願いです

が、何もかもよろしくお取り計らいくださいますようお願いいたします。

   同じ返事

 明日の一番汽車で発つとのことですので今夜から伺いたいのですが、心ならずも嫁の

考えもあり、お文を見るなり馳せ出ることは少し憚られますので明日お発ちの後ゆっく

りと伺うようにします。取り散らかしたものの片付けなどは私が行けば全ていたします

から、そのことは構わずに忘れ物がないよう心がけてください。途中は掏摸の用心に心

を注ぎ、汽車の乗り降りで足など踏まれることなどがあったら懐中に手をやりますよう

に。束髪ですから簪の心配はないでしょうが時計は帯の奥深くに入れるか手提げの中に

入れて膝に引き寄せておきなさい。一人旅だからといって汽車の中で知り合いを作るの

はよろしくありません。ご逗留は長くはないとのことですがなるべくなるべく速やかに

お帰りになりますようお願いいたします。留守番が嫌なのではありませんが、慣れない

(あなたの)旅寝が心配ですので。

 

   急な引っ越しを人に告げる文

 箱庭のようになったと笑われた元の家は、何某博士が是非欲しいと申されたままに

譲って、一昨日よりこちらにしばしの仮引っ越しをいたしました。かたつむりでも家

からは出難いものなのにと、人が来てはその無造作を笑われますが、新しい世帯のもの

もそれほどなく、車に二つ三つ、手伝いの男三人ばかり頼みましたらことなくこの家に

引き移してくれました上、いつのまに吊ったのか台所に絵馬を置く棚もあり、荒神

(台所の神に祀る)まで知らぬ間にできておりました。主は見慣れぬ住処が旅に出て

いるようだとおもしろがって、毎日絵筆を持って庭の様子などを映しております。前に

いた家は無風流で趣深くなかったとその旦那様を侮っておりましたが、このたびは風流

過ぎて盗人の用心をしなければなりません。垣根は名ばかりで大路よりのぞけば池の蘆

の間の月の住処もあらわです。絵はやえむぐら(雑草)のむさくるしさですからまた

物笑いの種にされるのも悔しいので、(少しでも)見栄えがするように夜に入って露の

置く頃においでくださいますようにと主の申し付けです。隣家に横笛の上手がおり、月

に澄んだ音が昇る音を二夜聞きました。これもおもてなしの一つにしますので必ず必ず

お待ちしております。

   同じ返事

 思いの家ともいうものをいかにも軽く思し召していらっしゃいますね。人から聞いた

ところではお約束をして三日後にはお引き移りされたとのこと、常々行く止まるという

ことをおっしゃっていますが、そのままのお心なのだと驚きました。お庭に茂るやえむ

ぐらは虫の音を聞くためでしょうが、池の水草は月にかき上げさせるのでしょうか。

わざと荒れさせたいくらいのお垣根が、すでに朽ちていたのはさぞご本望でありましょ

うと例の山がらすに似たこちらの主が申しております。今夜の月に雲がなく、家には

障りになる客も来ませんでしたら必ずご門をたたきますのでよろしく申し上げよとの

ことでお返事まで。

 

   親の病気を妹に告げる文

 差し急ぎ申し上げます。土地が隔たっているので何かとご案じくださっている中で

よろしからぬことをお耳に入れるのは心苦しく、大体のことなら言わずに過ごすべき

家内の相談ですが、実は父上様が先月の末から発病し、体中がしびれるようになって

自由がきかず、寝返りされることもできないようになりました。中風の類かと医者も首

をかしげており、常々大酒を遊ばされ、お体の健やかなことをご自慢し過ぎていた年月

が積もったのだと母上始め兄弟一同悲しんでおります。容体を申し上げると親思いの

あなた様のことですからきっと急いでお越しになりたいと、そちらのお舅様方のご機嫌

も考えず、お連れ合いのお考えに背いてただ一筋に振る舞われるようなことになっては

あるまじきことなので、事情を細かくお話しになって息のあるうちに一度は会わせたい

と思っているこちらの願いを取り重ねてお伝えし、お許しが出ましたら急いでお立ちに

なってください。旦那様へのお文をもう一通、これは母上から参らせます。ご容体を

申し上げるとお口が回らないのと体の自由がきかないばかりでご気分は確かですから、

急なことにはなりませんので、驚きのあまりかえって病気を引き起こしてしまいません

ようにと申し添えます。

   同じ返事

 父上様ご病気の報を承って驚きました。そのようなこととは思い寄らなかったので、

あまり久しくご無沙汰しましたお詫びかたがたこの地の名産の雲丹を少々小包便でお送

りしましたのは昨日のことでした。ご晩酌のお膳の上にと思いましたがそのお酒こそが

ご病気の元だと聞くと耐え難い心地です。母様よりのお文を良人が拝見し、こちらの

両親とともに驚いて、ほかならぬ(人の)ご大病の枕元に付き添って看護するのは子の

役目なのだから少しの猶予もなくすぐさま出立するようにと、お願いしなくてもお許し

が出ましたが、こちらの弟の六四郎殿の背中の脇に怪しい腫物ができていたのを何も知

らずに過ごしていたところ、次第に気分がふさいで顔色が悪くなり、いかにもおかしい

と思われましたので今朝市内にある病院に良人が連れてまいりましたところ、瘍と申す

ものでただごとでない病気でした。今日は連れ帰ってきましたが自宅ではとても療治で

きないので今夜にも入院させて手術をしてもらおうと論じていた最中のことですので、

心は二つとなり、体は一つであることが嘆かわしく、良人はじめ両親も出立を急がせて

くださるのですが、入院が済むまではと何気なく留まっています。遅くても明日の夜か

明後日早朝には旅路に着くようにしますので、親不孝の罪は大変深いですが、お文だけ

を先に送り、身は遅れて参ります。

通俗書簡文 十一

   妹に意見を頼む文

 大変お恥ずかしいことを申し上げて心苦しいのですが、言わなければいよいよやる方

がないのでお文にしてご覧に入れます。私の妹のあやめのことはご存じのことと思いま

すが、私とは腹違いの仲でもあり、いつも何かと心を置き勝ちで打ち解けない素振りで

はあってもいじらしく思われて、父母亡き後も特別隔てを置かないようにいろいろ言い

もし、教えもし、諭しもしてできる限り睦まじくしようと心がけていたのですが、どう

してもその甲斐がなく日一日と異常な、他人行儀なふるまいをして、悲しいことがあれ

ば一人引きこもって嘆き、嬉しいことがあっても全く笑顔というものを見せないのは

どうしてなのでしょうか。たった一人の妹なので私にとっては我が子と同じように愛し

く思っていますのに、私の行いにいたらないところがあって恨んでいる節もあるようで

す。それでは亡き親たちに対して済みませんし、お知らせしましたようにとりわけいつ

くしんでおりました子ですので、私の代になって思いがけずもすね者になってしまいま

したら、(私は)罪を逃れることができません。事にふれては心にかなわなくなった訳

を聞こうとするのですが口を閉じて何も言わないのです。ただ一人悩んで一人嘆いてい

るまま心に満たないのは私の行いなのか良人のことなのか、いろいろ推し量ってもよく

わかりません。ずいぶん心遣いをして気分に合うようにしたいと思っていましたが原因

がわからないと直しようがないので本当に本当に困っております。他人様にもあのよう

に言葉少なく内に潜んでばかりいますがあなた様には習字のお手本をいただいて、その

お直しを願うほどの浅からぬご縁がありますので、常々(あなたの)仰せだけは守ら

ければいけないと思っているようで、お言葉に背いたことを見たことがありませんから

あの子が信じているのはあなた様よりほかいるとは思えません。お教えくださいました

らあの心の底も解けましょうし、もしかすると思うことの片端でも漏らすかもしれませ

んのでお願いいたします。ほかの人に聞かせたら物笑いになるような家内の不和、妹一

人が空しく、望ましくない様になるのが悔しいのです。あなた様の広い心で隅々まで

思し召していただけましたら、そのうち妹が参上しました折に詳しくお聞きいただき、

私の心のほどもよそながらにお思い下さるように話聞かせてください。私の願いだと

知ったらまた快からず思うでしょうが、一重にあなた様のお袖を頼みにしておすがり

申し上げます。

   同じ返事

 お文拝見し、お心のほどを推し量ります。さぞかしお胸を痛めておいでのことでしょ

うが、あまりに深くご案じなさってお患いになりませんように願っております。この

ようなことは失敗すると人の一生をよくないものにしてしまうことがずいぶん世の習い

として多いものです。よくぞ思いついて私に仰せ下さいました。ご意見を申し上げる

ほどのことはできませんが、あなた様のお心はよくよく会得いたしました。あやめ様に

は十分お話ししてあの子の中に思うところもあるでしょうからそれらを十分聞いてみま

しょう。尋常でない節は確かに見えますが、といってご本性が曲がっていることはあり

ませんからやがて直ることと存じます。次のお清書ご持参の折、朝の内にお遣わし下さ

い。そうしましたら人の少ないところでお話しできますので都合がよいでしょう。私の

手が及びませんかもしれませんが、ともかく申し上げましょうというお返事まで。

 

   猫の子をもらいにやる文

 今日学校でお飼いの三毛が子をたくさん産んだとお聞きしました。器量のよい赤猫は

お跡取りにされるということですのでお願いしませんが、真っ白で尾と頭に少し黒が

ある雄猫を、私が大事にしていた玉が隣の犬にかまれて以来、あれに似た白い猫がいた

ら欲しいと思っていたのですが、お話を聞いてからその猫のことが忘れられず、赤の

ほかはよそへやるとお聞きして嬉しくなり、ぶしつけですがその猫をくださいますよう

お願いします。必ず必ず大事にして、夜も布団の上に寝かせ、おいしいものを食べさせ

て毛艶のよい姿をお目にかけるようにします。前にもうした隣の犬はすでに行方が分か

らなくなっており、この頃は安心ですのでなにとぞお許しくださいませ。お結納のお印

に粗末ですが鰹節を一袋、親猫のお食事に進呈いたします。お願いまで。

 同じ返事

 お願いを承ります。ただいま表通りの米屋からももらいたいと人が来たのでどれでも

よいとお答えしましたところ、一旦帰って主の娘と相談してからまた来ると門を出たば

かりで行き違いにお使いが見えました。もう少し遅かったらやむを得ずお断りするとこ

ろだったと一同顔を見合わせました。ご丁寧にご進物いただいて親猫がどれほど喜んだ

ことでしょう。このお婿さんは昨日今日爪を研ぐことを覚えまして、床柱でもふすまで

もかまわず爪を立てますのでご用心して厳しくお躾けくださいますよう。急なことで何

の用意もなく、首輪の新しいものも何も飾ることができませんでしたことをお許しくだ

さり、里方が悪いからと軽んじられませんようお願いいたします。小糠三合にも足りま

せんがまたたびの粉を一袋添えてまいらせます。幾久しくご面倒を見てくださいませ。

 

   種物の配分を頼む文

 春の彼岸も今日からと聞いて急に思い出してお文にてお願いいたします。昨年の夏母

と一緒に一夜のご無心を申し上げて、露に濡れたお垣根の朝顔がまたとないものだと

拝見いたしました。あの変わり種が本当に素晴らしくあのようなものを作ってみたいと

申し上げましたら、種は年ごとに納めてどの花かわかりますのでいつでも取りに来るよ

うに、大体春の彼岸に種おろしをするものとお教えくださいましたが、その後しばしば

お伺いした時にご配分をお願いしようと思っていたのにいつもお話しに紛れて忘れてし

まいました。今日彼岸と聞いて急にそれよと思い出しましたので少しお分けくださいま

したらありがたく、忘れて過ぎたことを深からぬ志だと思われてしまうのは恥ずかし

ですが、そのうち見事に育んでお出でをお待ちいたします。二葉の頃から鉢に移して

育てるのがよいとおっしゃっていたようにほのかに覚えがありますが、はっきりしませ

んので久助を送りますのでよくよくお聞かせくださいますよう合わせてお願いいたしま

す。手製の草餅を、これはお彼岸に差し上げるものかどうかわかりませんが、ありあわ

せだと思ってお茶うけにしてくださいませ。

   同じ返事

 忘れて過ぎたのは私の罪です。よくぞ仰せになってくださいました。お使いがいらっ

しゃらなかったらこちらでも種おろしを忘れて過ぎるところを、おかげさまで取り出す

ことができました。丸薬を入れた袋のようにして、そこに色と出まかせの名前を書いて

おきましたので蒔いたところに小さな札でも立てておいたらよろしいと思います。その

種おろしする土にいわれがあって、これは入谷の植木屋に聞いて毎年試みていました

が、このたび初めて作るのでは間に合いませんので、こちらですでに寒中から用意して

いた分がありますから一鉢分お分けいたします。そのうち詳しく申し上げますが、二葉

の後のことは久助殿に話しておきますのでお聞きください。いただいた草餅はお手製と

のことで誠にありがたく、賞味させていただきます。二、三日中にお礼に伺いますので

まずはお返事のみ。

 

   娘のしつけを人に頼む文

 日々のどかにお暮しのこと、お心の広さのためでしょうがおうらやましい身だと思わ

れます。そちら辺りの爽やかさに引き比べてこちらは家の中のやかましさ、一年中絶え

ない蝉のようだと主人は耳をふさいで苦しがっておりますが、私などが一通り静止し

も何を聞くものでしょう、いたずらっ子がたくさんいるのですからもて余すことがしょ

っちゅうです。我が子を我が手で躾けることができないと思われるのは恥ずかしいので

すが、折り入ってお願いがあります。ご存じのように前後男ばかりの中に一人いる三番

目の娘は女らしい気が一つもなく、飛んだり跳ねたりが次第に激しくなり、昨日も見て

いたら大路を竹馬で駆け回っておりました。私の驚きをお察しくださいませ、何をする

のかと聞けば、兄様たちが戦ごとをしているので私もその手助けをするのだと袂に小石

をたくさん詰めておりました。きっと投石するのだろうとものも言えずあきれ果ててし

まいました。年少とはいえ十一にもなってもう少し分別があるべきなのに、こんなだか

ら人から変生男子などと陰口を言われるのだとつくづく途方に暮れて、あまり厳しい

小言を言っても前に申しました通り男の中の一人娘というものは気が強く、負けず嫌い

なのでいつしかこんな成り行きになってしまいましたので、とてもとてもこの中に交じ

っていたのでは女らしくなることがおぼつかなく思われて、かねてより小娘を一人お手

元でお仕込みになりたいとお聞きしておりましたので万一このような暴れ者でもお手近

に置いて何くれとご面倒を見てくださいましたらと、誠に子を思う闇というのがよくよ

くわかってきました。昔の私ならば心のままにどのようにでも育てばよいと言い捨てて

おりましたが、とても捨て置かれませんのでお願いいたします。思いを汲んでいただけ

ましたらこの上ない喜びです。このお願いをしに今日お伺いしようとしていましたが

人が来て、それに紛れているうちに子供が学校から帰って来ましたのでついに出かける

ことができなくなりました。失礼の段をお許しくださいませ。

   同じ返事

 お文を繰り返し拝見いたしました。ごもっともなご懸念で、さもあろうとご推察いた

しますが、幼いうちのいたずらはかえってお喜び申すべきことです。もしご病気でいら

したらどうやってそのような激しい遊びができますか、引きかえて薬三昧などであった

らそれこそご心配はどれほどでしょうか。特にあのお子様は学校のお出来がよく、お勉

強せずに自然に進んでいるとお聞きしていますので頼もしいことひとしおで、年を一つ

重ねるごとに自ずから女らしくなるもの、これは覚えのないことではありません。お手

放されましたらお側が淋しくなり恋しくなるかもしれませんが、思い立ったのを幸いに

お預けくださいましたら喜んでお世話いたしますつもりです。ご存じの通り遠慮という

ものを知らない身ですからやかましく小言を言いますが、それらをすべてお含みくださ

ればいつでもこちらは楽しみにして待っております。いよいよご決定されたら一度お会

いしていろいろご相談したく、お出でをお待ちしております。

 

通俗書簡文 十

   家を買うことを人に頼む文

 かねてお話し申し上げておりました総領娘の分家のこと、親戚との相談がやっと整い

ました。近々一家を構えさせたいのですがいまだに相応の家が見つかりません。あなた

様はお手広くご交際されていらっしゃいますので、どこかに心当たりはございませんで

しょうか。場所が高台であれば特別な好みもありませんが、地所付きで蔵があれば望む

ところです。大体二千円を越えないほどで考えておりますが、それらをお含めになって

なにとぞ、お心掛けくださいますようお願いいたします。詳しくはいずれお目にかかっ

て、まずは右のお願いのみ。

   同じ返事

 拝見いたしました。ご長女様ご分家のご相談が整いましたとのこと、かねてお話の

あったお婿様をお迎えする為いろいろご心配していたご様子でしたが、このようになり

まして重々おめでとうございます。お申し越しのお家のこと、谷中にいる知り合いが

近々故郷に帰ることになって、家を始めそのまま売り払いたいとのことです。一昨日聞

いたところですのでお約束はできませんが、この家ならば大体のお好みに合うのでは

ないかと存じます。蔵もあり、地所もあり庭木などはずいぶん心を入れたものです。

ただ値段が少し高いかと思いますのでなお聞いてみます。建坪や間取りなどほかの細か

いことは例の粗忽者のことでよくわからないのですが、そのことも調べて図面を御覧に

入れるようにいたします。お気にかなうようでしたらご一覧されますよう。みっともな

いというほどではありませんが長屋が二棟ついていたと思いますの合わせて申し上げま

す。詳しくはよく調べたうえ申し上げますが、お急ぎとのことなのでさしあたって心に

浮かんだものをお知らせいたします。

 

   遠くへ行った友達に写真の交換を頼む

 毎日お目にかかっていてさえ飽きることがないと思っていたのに、これほど遠ざかっ

てしまっての毎日、とても懐かしくやるせないです。一日の内に二度も三度も、この頃

どのように面変わりしただろうか、前からお母様に似ていらしたけれど、田舎暮らしで

お心がのびやかになって頬のお肉が豊かになったのではないだろうか、それとも背が高

くなると共になで肩がますます細くなって、誰やらが見たてた枝垂桜の朝景色を思わせ

るようになっているのではないかなどといろいろ恋しく思っています。都をお離れに

なる時に何とか一枚はと願っていたのに、後で後でと言い逃れられてしまってそのまま

お写真のお恵みもないので、ひがんで故なくお恨みいたします。時々いただくお文を

毎日取り出してはお言葉をいただいている心地でいますが、面影が見えなければ物足り

ないようで、遠い雲のはるかな(人となってしまったような)思いです。お文の言葉通

り今もなお(私のことを)思い起こしているというのならなぜお姿を惜しむのでしょう

か。お慎み深い心からなのはもちろんですが、他人でない私になぜそのようなお隔てを

なさるのですか。こちらでは手箱に秘めてゆめゆめ人には見せず、一人で眺めて一人で

大事にするのですからお許しになってくださるなら、こちらの見苦しいものをお送りし

ます。いつくしんでくださいとは言いません、お机の引き出しかお針箱の隅にでも紛れ

こませて下さったら少しも恨みはありません。早くお返事をください、面影を拝せる日

はいつかいつかといつまでも待っています。

   同じ返事

 お文で繰り返し繰り返し仰せいただいたのに差し上げなかったらお怒りに触れるでし

ょうが、といってあさましい田舎者になり果てた姿をご覧に入れるのはつらいのでどう

しようと思っておりました。ありし頃ご一緒に学校通いをした朝夕に傘を差して日焼け

を嫌ったその私ではなくなってしまったことは推し量られるでしょうが、見苦しいから

と差し上げなかったらかえって失礼にあたりますね。都を去って以来お知らせしました

ような家の様子、父さえ筆から鍬に変えて、そこまでしなくてもと人々に言われながら

も、その時々の世過ぎだと言って立ち働いている中、絹はんけちで顔をぬぐっている

わけにもいかず、白粉などはもう幾月手に取りませんことか。都にいた時は田舎者は皆

歳より老けて見えておかしいなどと嘲っておりましたが、本当に人は所柄で、郷に入っ

ては郷に従えということです。この辺では二十歳を過ぎて肩揚げしている娘もなく、三

十女の緋縮緬の襦袢の袖などかけても見ることはありません。ちょっと荒い縞物を着て

もすぐに人が見とがめるようなところですから、ひたすらくすんでしまった今日この頃

の私のありさまをご覧になったら驚くことでしょう。したがって面変わりはこの差し上

げます写真でご覧くださいますよう、それでも仕方ありません、思う心はその昔よりも

増して忘れるはずもなく恋忍んでいますから、もしこの面影が見苦しくても、だからと

いって飽きられてしまうような軽いお付き合いではなかったと思い返して、このような

浅ましい姿をご覧に入れます。人に逆らうのはいけないというのはいつものあなたの

お教えですのでこのような時があればなおさら守りますから、ぜひこのお取替え(の

お写真)を早くくださいね、こちらにだけ求めるのはお人がよいとは言えませんよ。

 

   奉公人の代わりを求める文

 その後お変わりはありませんでしょうか。ご様子を伺いにと思いながら久しくなって

しまいました。召し使っている仲働きの竹が、故郷の親が病気になったと迎えの人が来

て十日ほど前に暇をやったままなので、ものの不自由のみならず小間使いは年がいかな

いし、お勝手で働く女は少し耳が遠いので人様とご挨拶することができないのでつい家

を空けることができず、思いながらもご無沙汰してしまいました。さてそれを先にお許

し願って、お頼みしたいのはこの竹に代わって家内の隅々まで心遣いしてくれるような

女を一人抱えたく、仕事が少しできて行儀作法のある二十歳から三十までが望みです。

顔も少しは見苦しくない方がよいですがこれは欲の上でしょう。いつか抱えた黒あばた

の女のように夕方いらしたお客様が声を立てさせるような程でなかったら、どのようで

も細かいことは言いません。非常に気の強い賢い子よりは少し鈍くても真面目に働く子

が欲しいです。給料は年二十円、風呂は家で立てますが髪は自分で結わせる決まりで

す。もし相応な人にお心当たりがありましたら、なにとぞお世話してくださいますよう

お願いいたします。お出入りの多いあなた様ならではと、失礼も顧みずお願いいたしま

す。ご存じの通り心遣いの足りない私は竹の手ばかりを待っておりましたので、急に

面倒が増えて一日も早く代わりを求めておりますので、お願いのみ。

   同じ返事

 久しくいらっしゃらないのはどうしてかと思っておりましたが、こちらでも不時の

り込みごとなどがあって、何くれと紛れて暮らしお伺いもせずにおりましたが、お召使

いの竹さんが急にお暇をいただいて故郷にお帰りになったとか、人手が足りずご不自由

でいらっしゃることでしょう。万事細かいことを気にされるあなた様のご面倒が推し量

られます。ちょっと置いた走り使いでもいなければ困るものなのに、まして十年近くも

お使い慣らしてお家の中をことごとく知り尽くして、何も言わなくても整ってお気楽で

したのに急にいなくなってはどれほどお差支えでしょうか。真面目に勤める代わりをと

の仰せ、本当に現代風の小ざかしいよりは少し鈍に見えてもその方がはるかにお使い

よいものです。心がけてしかるべき人がいたらすぐにお目見えいたします。知人にも頼

んでおきますが、急いでとのことでさしあたっては思い寄りませんので、もし急に人手

がご入用の際はこちらの女中をいつでもお手伝いに伺わせます。お答えをかねて右申し

上げますので、ご遠慮なく仰せくださいませ。

 

   品物の借用を頼む文

 かねがねご心配いただきました良人の病気は次第に快方に向かい、家の中では人手を

借りずに歩けるようになりました。明日床上げの真似事をして、お見舞いくださった

方々に心祝いのお赤飯を差し上げたいと思っていますが、新所帯でまだ何も整っておら

ず、お重などの用意もなく、袱紗のふさわしいものもありませんのでどうしようかと

困っています。ほかならぬあなた様には日頃の家内の様子を打ち明けてお聞き願い下さ

っていますので、お恥ずかしいことですがお笑いにはならないと思います。これらの品

の拝借をお許しくださいましたら大助かりです。かさねがさね我儘を申しますがいつか

お道具を拝見お願いしました時、これは次通り(?)だとおっしゃっていました如輪の

お重を拝借願えましたら晴れがましいことです。お梨地のものや定紋付きのものはあま

りにお見事過ぎてかえって恐れ入りますので。お袱紗も上等でないものでお願いいたし

ます。なお午後からは本当に親しい方だけをお招きして粗酒を差し上げたいと思って

おりますのでご夫婦様ご一緒においでくださいましたらありがたく、そのお願いを取り

添えてよろしくお願いいたします。

   同じ返事

 旦那様のご病気がいよいよ快方に向かい明日はお床上げされるとのこと、一時はとて

もご心配されたご容体でしたが、このように早く回復されたのは全くご看護がお手厚か

ったからだと失礼な言い方ですが感心しております。なお、お軽はずみのないよう、

あなた様に如才はありませんが、例えにもある老婆心をお聞き置きくださいましたら

嬉しいです。お重のことはよくおっしゃってくださいました。お互いないものはなく、

あるものはあると打ち明け合えることが頼もしく、そうでなければこちらからも願い事

を申し上げられません。定紋付きは好ましいものではないので出しませんが、梨地の方

はそのようにご遠慮なさらないでどんなことにもお使いくださいませ。仰せの如輪杢と

一緒にお使いに持たせます。こちらは隠居ですから祝儀不祝儀どちらにも関わりがない

ので、今はこのようなものが必要な時もなくただ蔵の中に押し込めておりますから、

急いで返すには及びません。そのままお留め置きになってもお気になさらないでくださ

い。明日の午後は何某の歌会に必ず出席する約束があり、隠居はそちらへ参りますの

で、私だけがご馳走をいただきに上がります。そのほかのこといろいろはその折に。

 

通俗書簡文 九

 雑の部

   婚礼祝いの文

 承りましたところお嬢様に大変よいご縁があり、お引き移りは今月末とのこと。本当

に、日頃の(お宅の)ご教育で明らかですが、お学問もお手の芸も残すところなくお習

いになって、陰ながら娘を持ったらお宅様のようであってほしいと話し合っておりまし

た。お婿様は周りに聞こえるご秀才でおられて、相生の松は栄え、ご家門のご繁盛の根

ざし(根が張る)が今から思われますが、それでも言葉が足りないほどおめでたいこと

です。お付添いには使い慣れたお竹さんが行くとのこと、あなた様もどれほど心安く、

ご心配もないことと思います。帯一筋、古風な好みですのでお気に召すかわかりません

がお祝いの印ばかりに。お支度のいろいろはかねてよりお手配していらっしゃるとは

存じますが、中通(?)のお仕立てができるものがこの辺りにいますので、ご用があり

ましたらおっしゃってください。近いうちに伺ってお話をいろいろ聞かせていただきま

すが、心ばかりのお祝いまで。

   同じ返事

 娘の縁のことをお聞きになったと、お見事なお祝いのありがたさを何に比べることが

できるでしょうか。織り出した松竹の(ように)幾久しく受け納め申し上げます。お聞

き及びでしょうが先様の家柄はそれほどでもありませんが、度量が広く、男らしくりり

しい方です。婿誉めするのもおかしいですが学才も人に遅れないという仲人の言葉だけ

でなく、私共夫婦も何度も会いましたところ、どんなことにもこだわらない気性、見る

目によっては少し無骨かもしれませんが、娘はご存じの通り沈みがちな内気者ですから

反対なのでかえってよいのではないかと思い早々に取り決めました。女の子はあれ一人

で常々甘やかして子供のように育てましたので、一家の妻としてどのように勤められる

のかと心が落ち着かないので竹を付き添わせましたことを、おおよそご推量してお笑い

くださいませ。縫物のことをおっしゃっていただいてありがとうございます。このよう

な急なことでもあり支度は必ずしてくださいますな、ただ身一つでと申されましたまま

ことさらに用意をすることもなく、ただ多少のものは松坂が引き受けて大体できあがり

ました。いずれお礼を(娘を)伴って共に伺いますので様々な心得を仰せ聞かせてくだ

さいましたらありがたいです。この日頃あれこれ心遣いしました名残で少し目がかすむ

ようで、筆がはかばかしく取れず何もかも言い残したようですが。

   

   出産祝いの文

 お嫁様が昨夜ご無事にお産されましたとのこと、予定の月が過ぎましたのでどうして

おられるかとよそながらご案じしておりましたが、初産のお手柄ともいうべき男の子で

いらして、ご両親様どちらに似てもさぞかし美しく愛らしいことかと推し量られます。

ご産婦様は血の気などになってはいませんでしょうか。女の一大事ですので三度三度の

お気遣いをされているでしょうが初めてのことですし、とりわけあなた様のお心遣いは

どれほどでしょう。重荷を下ろしたようではないでしょうか。おばあ様と言うには似つ

かわしくないお年ですが初孫をお持ちになるとは羨ましく、早く伺って見せていただき

たいと心急ぎますが、田舎から泊り客が来ていて今日は伺うことができませんので、

お祝いを印ばかり、誠に粗末なものでお恥ずかしいのですが、黄八丈一反を進上いたし

ます。蓋物の中はご産婦様に差し上げてくださいますよう、さらし飴少々です。やがて

お伺いして赤様を抱かせていただきますことを楽しみにしております。

   同じ返事

 嫁の初めてのお産は、月も延びてどうなることかと内心案じておりましたが、ことも

なく出産し、仰せの通り重荷を下ろすとはこのことです。幸いに血の気もなく子供も

極めて丈夫なようで泣き声が高く、父親似の太い眉でこれもまた癇持ちかと笑われて

おります。ご丁寧な品々でお祝いくださいましてありがたく、一同よろしく申し上げて

おります。お客様がお帰りの後、ゆっくりとご覧になりに来てくださいますようお待ち

申し上げます。いずれ息子からもお願い申し上げますが、お宅様のご総領様を始め、

いずれも欠けるところなくご出世され、お体もお健やかにご繁盛されて常々うらやまし

くお栄えだと思っておりました。この子の行く末をあやからせたく、ご迷惑ではありま

しょうが名付け親にぜひなっていただきたく、無理なお願いをお聞き入れくださいまし

たら嬉しいのですが、詳しいことはお目にかかって。お使いを待たせておりますので、

取り急ぎお礼まで。

 

   開業祝いの文

 今日召使いの長松をご近所まで用足しに遣わしましたところ、帰ってきて三河屋様が

今日店開きしたとみえて提灯や国旗などがにぎやかで、市のような人山だったと勇んで

申しておりました。近々ご開業の運びだとは伺ってはおりましたが、今日とは思いも

よりませんで、お祝いも申し上げず遅れてしまいましてお許しくださいませ。お店開き

早々上景気でいらっしゃるのは何よりのご吉兆だと共に喜んでおります。商売違いです

のでお手伝いに上がっても何もできませんが、夜になりましたら主人が伺うとのこと

です。粗酒を一樽と肴を一籠、お祝いまでに持たせますのでお受け取り下さいますよう

お願いいたします。ますます栄えに栄えますようご商運をお祈りいたしております。

   同じ返事

 お使いにてお見事なお祝物をいただいて恐れ入ります。今日の店開きを前もってお耳

に入れておくべきはずでしたのに事々しく吹聴するのもどうかと(思われる)六間間口

の店構えでしかありませんので、主人が申すにはとにかく暖簾をかけて今日開業などと

いって間の伸びた様子でいても来る人もなく、店先でむやみに寒そうな顔をさらしてい

るのを見られても恥ずかしいので、何も申さずに二三日してもの慣れて、玄人めかしく

なったらこうなりましたと驚かせよう、それまではひた隠しにせよと申し付けましたの

で私も、何もかもが新しくて(初めてで?)お恥ずかしい様子ですので、もしいらっし

ゃるのならもう少ししてからのお出でをお願いしたく、やがて肩襷に前垂れを挟み上げ

て小商人の妻らしくなりますでしょうから、それまではお許しくださいませ。長松殿が

お使いに参られた時も私どものまごまごとした様がおかしいとお大笑いされました。

今日は知った人の手伝いもあり何とか取り繕いましたが、明日はどうなることかと思い

やられます。お礼にはいずれ伺いますが、今日のご無沙汰の申し訳までとりあえず走り

書きにて。

 

   新築落成を祝う文

 年来お手狭のご不自由をおっしゃっておられましたが、お蔵の前から縁続きに新しく

お建て増しになって、いつしかご普請ができあがったとのこと。お座敷開きには私共に

も来るようにとお招きいただいて大変嬉しく、楽しみにしております。お建て増しした

お二階からは富士も筑波も一目に見られるとのことで、夏の涼しい時はもちろん、月の

日も雪の日もさぞかしさぞかし家に居ながら遊山できることおうらやましい限りです。

こちらで取り賄ってほしいという額の揮毫を早速主人が例の先生を訪ねて頼みに参りま

したところ、いつに似合わず快くお引き受けになって、一両日中にはできるとのことな

のでこちらから届けます。床の間の飾りなど全てに素晴らしいものをお選びになり、

整えていらっしゃるところへおかしなものを差し出すのはとても心苦しいのですが、

古薩摩の花瓶と古銅の獅子の置物を心ばかりのお祝いに。当日は夫と共に伺いますので

お家の様子を詳細に拝見させてください。おっしゃっていた南天の床柱が珍しいので、

見せていただくことを楽しみにしております。

   同じ返事

 大した数寄もなくただあまりに手狭でしたので少し息がつけるようなところをと建て

増したものですので、とりわけ御覧に入れるような座敷もないのですが、ただ開けた

二階で粗酒をお一つ召し上がっていただきたくお出でをお願いいたしましただけでした

のに、お心入れのお祝いを、ましてやお家に伝えられた貴重なお品をいただきました

ありがたさ、長く床の間の光といたします。主人もくれぐれもお礼を申し上げてくださ

いとのことです。お取り持ちをお願いいたしました何某様の御筆、事情をお話しくださ

って書いていただけるようになったこと、かねがねお難しい方だと伺っておりましたの

に差支えなくお聞きいただいたのは全く(あなた様の)おかげだと一同喜んでおりま

す。額ができあがるころには壁も乾くことだろうと思います。お出でになる日は晴れて

欲しいと今からそればかり願っております。お二方様必ずお越しくださいますよう繰り

返しお願いいたします。

 

   仲人を頼む文

 何かある時でなければお文さえも出さずに我儘ばかりをお許しください。打ち明けて

お頼みしますのは、お隣の桜木様の御長女が学校での評判もよく、気立ても素直で器量

も人より優れていると聞き及んでかねがね望んでおりましたが、お嫁に申し分のない人

だと内心慕わしく、お宅様へ行くとたびたびお座敷にいる時にかすかに漏れ聞こえる琴

の音に心が動かしておりました。いかがでしょう、こちらへお嫁に出してくださるでし

ょうか。もしほかにお約束があるようでしたら甲斐のないことですが、内々にお知りの

ことをお聞かせくださいませんでしょうか。倅はご存じの通りの理屈もので、まだ妻な

どの心配はいらないとはねつけるのが常なので、このたびの思いつきに不承知を言い出

すのではないかと思って聞いてみたところ、いつぞやの上野の音楽会とやらでお目通り

したことがあり、あの人ならばもらってくださってもよいと何の異存もないのは、十分

気に入っているのだと思います。こちらの身代から倅のことまで逐一ご存じのあなた様

に今さらですが改めてお願いいたします。先ほど申しました通りご先約がないようでし

たらなにとぞお申し込みの仲立ちの役をお引き受けお願いしたく、伺って申し上げる

べきのところ少し風邪気味で、風に当たるのはよくないと医者に止められております

が、善は急げということで早くお返事が聞きたくて文にして申し上げます。

   同じ返事

 お文拝見いたしました。お申しつけのお話は、そのような思し召しがあればと思って

おりましたが、ご子息はとかくそのような話に渋々だと承っておりましたので、申し上

げてもお聞き入れないだろうと差し控えておりました。誠にお眼鏡の通り、隣家のお嬢

さんはお行儀といい、学芸といい、まして性質がおとなしくて女らしいことはこの辺り

に知らぬ人はなく、まったくふさわしい娘さんですので本当に一対のお仲になると存じ

ます。昔から行き来もあり何かとお家の様子も知っておりますが、まだどこへもご縁の

話はないようです。お仲立ちの大役は身に応じませんが、お橋渡しはどのようにでも

いたしますので早速問い合わせてお返事申し上げます。常々ご子息様のことは話のつい

でにしたことがありますので、おおかた嫌ということはないかと思います。今から行っ

て詳しくお話ししていきますので万事は後から私が伺いまして申し上げます。

  

   

樋口一葉 残簡 その一

 

                   冬空に白鳥がやってきたが、撮り損ねた。

 通俗書簡文に少し飽きたので残簡を読んでいる。一葉が勧工場で働きたいと思ったの

に母に止められたことがあって、そこから思いついた話のようだ。話し言葉を見ると

こんな口調だったのかと思う。そして本当はお母さんにこう言いたかったのだろうな

と…。上の上に行きたいというのも一葉らしい。

                   一

 長い間いたわった甲斐もなく、昨年の八月の終わりに父が亡くなり今はたった一人と

なった母君に慣れない台所仕事をさせたくないと思っても甲斐のない貧しい生活。妹も

同じ長屋のお妻という髪結いの下働きにやとわれて毎日出歩いている。お嬢様と言われ

るはずの身に洗いざらしの針目が見える(継ぎのある)着物を着け、胸の隠れる前掛け

をして、紅白粉という歳に尽きぬ思いの結び髪で、毎朝毎夕手に取る櫛で梳ることも

なく十六の春をいたずらに過ごさせるのかと、さまざまなことが思い浮かんで深く悩ん

でいるので夕暮れの鐘の音も聞こえないようだ。

「おや今日は兄さんの方がお先でしたねぇ。」とだしぬけに声をかけられて振り返り、

「おお、お八重さんか。いつ帰ったぇ、ちっとも知らなかったよ。」

「いいえ、今帰ったばかりなの。おっかさんただいま、あのこれはねぇ表町の松本さん

てぇお家でいただいたのよ、まぁ召し上がってご覧じゃいよ。あの、なんだって、これ

は虎屋ってぇので宮内省の御用お菓子ですとさぁ。」

「おおそうかぇ。それはまあまあ、ちょっと兄さんご覧よ、何と見事ではないかぇ。

お八重や、松本さんとおっしゃるのは。」

「はぁ松本さんはそら、あのいつかねぇ、お嬢様のお古いお召をいただきましたろ、

あのお家よ」

「ああそう、そういやそうだったねぇ、まぁ本当にいつもいつもありがたいこと。次

上がったらよくお礼をお申しよ」

「はい。あの兄さん今日は少しよい話を聞いてきましたの。おっかさんとあなたがよい

とさいおっしゃれば私はすぐにでもするつもりですけれどね。」と言えば、こちらは

膝を差し向け、

「よい話とは結構な、全体どういう話だぇ」

「まあこうなんですよ、今日その松本さんてぇお家へ参るとね、ちょうどお出入りの人

らしい町人風の人が来まして、今度上野へ何とか言いましたっけ、何でも博覧会みたよ

うな、勧工場のようなものが出来てましてそのまぁ売り子ですねぇ、十五位から二十五

六までの女を欲しいというの。そして給料は一番下等で一日七銭ですとさ。それから

二十銭まであるというの。それにそんなに忙しいこともないんですから合間には針仕事

こそいけないそうですけれど、そのほかは編み物でも本を持ってきて読んでもいいんで

すと、そういう話をその人がしましたら奥さんが私に、お前もしやってみる気があるな

ら頼んであげるよとおっしゃってくださいましたので、私は一応母や兄に聞きまして

からと言ってしっかり返事はしませんでしたけれど、やってみたいと私は思いますわ。

それにその人も、わしが世話をすればかなりよい給料にしてやるって言うのですがどう

でしょうね」と問いかければ千代二はしばらく考えて、

「ちょっと聞くといいようだけれど、なかなか言うようなわけにはいかないからねぇ。

最下等が七銭といったら七銭を目安にしなくちゃ、当事というものは多く外れやすいか

ら。それよりも第一はそんな多人数に顔をさらすのもあんまりお前が気の毒でねぇ、

私には何ともしかし、ねぇおっかさんどうでしょう」

「さようねぇ、私もお前のお説さ。ほかのことはともかくもお八重があんまりかわいそ

うだから」

「あらおっかさんも兄さんもそんなことおっしゃっちゃいけませんよ。何に顔をさらす

たって人に恥じることをするのじゃなし、白几帳面(とてもまじめ)のことをするのに

何も悪いことはないと私は思いますわ。そりゃあ大変事柄が違いましょうけれど大臣様

華族様方が慈善会とかいうものなさるじゃございませんか、どう事柄が変わっても多

くの人に物を売る道理は少しも変わりゃしません。人中へ顔を出さないなんかっていう

のは昔のことですわ。まして私らなんざ何構うことがありますもんか、いくらでもお金

の取れることをして早くよくなる工夫をするのですもの。それに最下等の七銭よりほか

取れないだろうということもなかろうかと私ゃ思いますわ。なんでもこれまでという

制限があることでもその決まりより上に上がりたいのよ、一番上等が二十銭なら二十二

三銭取れるようにしたいの。ねー兄さんどうぞ出してちょうだいな」と熱心に言い出す

ので千代二は組んでいた手をほどいて、

「それほど進んで言うことを無理に止めるもかえって変なもの、おっかさんだって私だ

って他に異存はないけれど、ただお前がかわいそうだと思うから止めたけれどもしお前

が奮発してやってみようというならそうしてもらおうよね、おっかさん」

「あー、だんだん聞くとそれもそれだから千代二とよく相談するがいいさ。」

「しかしねぇお八重さん、あんまり血気にまかせて向こう見ずやっちゃいけないよ。私

がもう少し歳でも取ってりゃそんなにお前にまで心配させないもの」

「あら嫌だ兄さんもったいない。私ゃやっぱりこういう性分なの、これが好きなんです

もの、それじゃあおっかさん今のうちにちょっと先方へ挨拶をしておきましょ」と立と

うとしたので、

「まぁお待ち、もうそろそろ暗くもなるしご膳でも食べてにおしよ」

「本当ねえ、じゃあそうしましょう。どら私は燈の支度をしましょうよ」と身軽に立っ

て、持ってくるらんぷの三分じんらんぷ(?)の光は薄いけれど家の中に光を添えた。

                  二

 お父さんお父さんお目が覚めましたか。お目が覚めたら薬にしましょう、何今度の薬

はそんなに上がりにくくはないようですよ、あるこうるが入っていますから。お父さん

お口直しは昨日大家さんでいただいたころ柿、はぁこれは甲州のですとさ。そうですか

少し庭がご覧あそばしたいの。

 一つ上がれと乗せてくる縁の欠けたわれを敷き、薬と共に差し置けば父は病の床を居

直って雪や今日はだいぶいいかと思うからそんなに心配するなよ。ああ今日はもう七日

だなぁ、去年の暮れからこの俺がどっと床へ着いてしまったからほんの当座のいんふり

えんざと思っていたのが大事になり、まぁちょうど一月越し。足りないものはいよいよ

足りなく、さぞ手前が困ることだろうと思うけれど、意地も我慢も病には勝てぬから

どうもこうもしようがない。

 

 お父さんただいま。お目覚めですか、ああお薬を召し上がって。そうでございました

か、それじゃあちょうどよございましたわ。これご覧あそばせ、こんなよいころ柿、

お父さんお食べ、お好きですからねぇ。今表で見かけましたから採ってきました、お口

直しにおひとついかが。

 春だと言って世の人は作り飾っている晴れ袖を、いつ着せたままの着物やら、もう

これ十六という歳。世が世であればお嬢様で島田に結わせる歳ながら、束ねたままの

銀杏返し。せめて私が体がよくは、少しはお前の手助けになりもしよう、なられもしよ

うに三歳越しの長患い。それでもまだその中までは悪いながらもましながら、かてて

加えて流行のいんふりえんざとやらで寝た限り故、さぞ困事であろうのうと言いつつ

こぼす一滴をこちらはわざと笑顔で答え、何おとっさんそんなにおっしゃいますなよ、

私島田は大嫌い、結える時でも結いはしないわ、それよりこの方がよいのよ。着物った

ってこれでたくさん、着物が悪いなら人でないとは言いやしません。向こう裏のはんけ

ち屋の娘、あれをご覧あそばせな、着物は通して柔らかづくめ、うまいものも食べます

し、おもしろいこともするか知れませんが、旦那殿だとか何だとか聞くのも嫌なことを

しているのですから、前でこそ知らん顔をしているようなものの誰も相手にしやしませ

ん。それから思えば私は天にも地にも恥やしません、汚れた柔らかものよりも清い木綿

がよござんす。なぁにおっかさん案じなさんな、案じるよりは生むが安いでそんなに

困ってばかりいやしません。七転八起ですよ、今に今にどうかなりますわ。そのことは

心配しないで、精出して薬を上がれ、そして早く治っていついつまでも丈夫でねぇ、

よくなるところを見せてくださらなくちゃいけないからねぇ。ほんにお前の言う通り、

そうぐずぐず言っても仕方はない、ああおとっさんさえ世にお出ならまたどうかしよう

もあろうに。

                 三

 飛鳥川の(ように)流れ浮き沈みのある世と思えばこそ、こういうこともあるだろ

う。久方の雲の上を見れば錦衣九衣肥馬馬車、何の集会だろう。この宴席で越後屋仕立

ての振袖も似合わないと二度とは着ず、学校通いの束髪も人が結ったのは気に入らず、

自分で二時間をつぶして手伝う侍女らに当たりながら今日は行かないと言うような姫君

もいる中、自分は生まれ出て二十四年引っつめの銀杏返しのほか夢にも思わず、忘れも

しない七つの歳に柔らかい着物というのは前後ただ一度、地主の娘の着古しという飛び

八丈の一つ、わが身の晴れと思ったが、それすら今は切れ果てて胴着の袖に名残をとど

めて跡かたもなくなってしまった。

 そもそも母は私が四つの歳に亡くなって、杖にも柱にもただ一人の父が今はもともと

虚弱の体に沢山の辛苦を重ねたので一昨年の暮より引き続いて病気、看病するといって

もこの貧苦の中に