2022-06-28から1日間の記事一覧

樋口一葉「暗夜 三」

九 秋は夕暮れ、夕陽が華やかに差して、ねぐらに急ぐ烏の声が淋しい日、珍しく車夫に 状箱を持たせて波崎様より使いという人が来た。おりしもお蘭は垣根の菊に当たる夕日 が美しいのを眺めていたが、おそよが取り次いでお珍しいお便りですよと差し出すと、 …

樋口一葉「暗夜 二」

五 行こうと思い立った直次郎は一時も待てず、弦を離れた矢のようにこのまま暇乞いを と佐助を通じてお蘭に申し上げると、とてもではないと驚いて「鏡を御覧なさい、まだ そのような顔色でどこへ行くのです、強情は元気になってからなさい。病には勝てない …