随筆

 ホトトギス鳴く5月の初め、菖蒲の根のように長い付き合いの友同士が集まって小田

原評定(重臣会議)をした。この頃の新聞で、埼玉県大宮の公園をおもしろいところ、

趣があるところ、しゃれたところ、風流で雅なところだと記者様がむやみにお褒めに

なっていたので自然に気が浮き立って、行こうではありませんか、では何日にいたしま

しょう、クイナがいますでしょうか、いえ蛍は氷川の名物でございますなど、あれこれ

言いながら話が決まったが、そのうちに炎帝様(夏の神様)の勢いが増して、足を出し

かねている間にご盟約した方々も中伊豆の別荘へ、鎌倉の某館へ、父君のお伴とやら、

母上にご同行とやら、さらにはご親戚のお誘いでなどとご随意に避暑へ出かけてしまい

取り残された私は一人手習い、吾妻鏡の八重姫か鬼界が島のお坊様か、とにかくも嬉し

からぬ役割だとしみじみ愚痴をこぼしていたが、時が経てば夢のように忘れて、一坪

ばかりの庭で月を見たり風を待ったりして夏を過ごした。

 吹く風がひやりとする頃になれば、もう遊びに行こうなどと詮議するどころでなく、

コオロギが鳴くより先に肩刺せ裾刺せ綴れ刺せ(冬になる前に着物のほころびを直せ

と歌うコオロギの鳴き声を表す)繕い物や洗濯に追われて困るやら、心がけが悪かった

ことを悔やむやら、諸行無常ごたまぜの秋の暮れ、9月22、3日頃、時雨めいた昨夜から

の空も晴れて朝方でも浴衣で過ごせる好日和に、小石川の先生にお約束した終わりの

茄子、友であるご令嬢が肥料に牛乳がよいと仰せだったが、人間の顎でさえつるしたい

(食べるに困っている)ほどなのに野菜に栄養を与えるどころではなく、よく勉強も

せず投げやりに育てたものだったが大きく育って、嫁に食わすなと言われる盛り、八百

屋で買えは3文の値打ちもないが、私の手作りという自慢で、破れた折り箱にその葉を

敷いて、つぎはぎだらけの海気(甲斐絹)の袱紗に包むとまたひとしおおかしいと家族

は笑う。それを下げて家を出てちょこちょこと駆け出せば、目の利かない車夫が車を

どうぞと勧めてきた。

 お客様ならぬ身は庭の切戸をずんずん入って茶の間の縁に荷を下ろすと、まあお鹿

様、お早いお出かけでと頓狂な大声を出す召使に先生はお目覚めかと聞くと、いくらな

んでももう10時になりますよ、この頃はそんなにお寝坊はされませんと笑うので、それ

ならちょっとお目通りをと言い終わる前に、鹿ちゃんよく来てくれた、実は今お前を

呼びにやろうとしていたところでしたよと出てきたのは先生。

 急に大宮の七草を見に行こうと思い立ちましたが一人では行けないし、連れ立つのも

煩わしい、鬼界が島の恨みがあったとか聞きましたが、今日は抜け駆けして一の谷(鵯

越の奇襲)はいかがと珍しく冗談をおっしゃるのもおもしろい。家に許可をもらわなけ

ればと言うと、1時の汽車で3時には帰ります、お母様には私がお詫びを言いますからと

簡単に話を進めるので、それでも普段着のままできましたからともう一度言うと、着物

も帯も私のを、そこの箪笥から勝手に取って支度をしなさい、私も髪を結いましょうと

立ち上がった。では、といろいろ引き出して着けてみれば袖の丈が長い、繻珍の帯に

糸織の単衣だったが狼に衣を着せたようだった。

 

 

 長期休暇を取り心にゆとりができて、少し手のかかった料理を作って楽しんでいる。

鯛のお頭二つ割りが198円だったので、一つを塩焼き、一つを憧れのアクアパッツァ

した。アサリを失念していたので、生鱈とカキ(キムチ鍋用を流用)とイカ(安くなっ

ていたのと手間をいとわない心だったので買っていた)を入れた。期限切れになって

いたオリーブの瓶詰や長らく冷蔵庫に入っていたケーパーはなくても不足はなさそう。

ニンニクとトマトは欠かせない。とミックスハーブを切らせていたので、冷凍パセリ。

養殖なので塩焼きでも脂っこかったが、トマト煮ならさっぱりするし安くて最高!

気になっていたインペリアル納豆。オリーブの味とは合うが、やはり納豆の前にはどん

な薬味も無力であった(ミルクボーイ風)。パセリが生ならもう少し変わるかも。トマ

トで作るエビチリ、送ってもらった四国のレモン腐る前にタイ風タレ、最近スーパーで

香菜売らなくなってしまったので淋しい。今年は作るしかないな。ハード系パンやちょ

っとだけいい乳製品、麦とホップまで私の好きなものどんどん入荷止められる…。

しばらく出かけるので保存食作り。ガパオやもつ煮込み、ホイコーローなど国籍ワヤ。

シベリアに帰る白鳥が鳴きながら飛んでいる。このくらいだったなここでおもしろかっ

たことって。