通俗書簡文 十八

   娘を嫁入らせる前に人を招く文

 かねてより詳しくお話ししておりました娘の縁談がいよいよ取り決まり、今月十五日

に輿入れすることになりましたのでなにとぞご安心ください。いとけない頃からお膝元

に参らせて礼儀作法をはじめ、縫物の一通りを恥ずかしくなくできるようになりました

のは全くあなた様のご丹誠のおかげだと、このご縁がまとまったのを見るにつけありが

たさはこの上なく、長々とお世話していただきましたお礼がてらお披露目の宴を催し、

お暇乞いのお酌を取らせたいと思います。明日午後よりご夫婦様ご一緒においでくださ

いましたら恐縮です。年だけは相応にとっても世の中のことにはまだまだ暗く、嫁入り

を遊びに行くように思っておりますので、私が申し聞かせても気安さのあまり何とも

思いませんので、なにとぞお出でいただいていろいろな心得をお聞かせいただきたく、

おもてなしの数もありませんが快くお酔いになってくださいますよう、ご相客は親族の

二、三人です。

   同じ返事

 人が生んだとは思えずとても大切に思っていたお子様のご良縁が決まったことを承っ

て、重荷が下りたような心地です。お年よりは若々しく見えますが元々ご利発でいらし

たのですから何のご心配がありましょう。お舅姑様方のご機嫌や、家内の締めくくりも

確かにお計らいできますことはこちらで受け合います。めでたいことはこの上もありま

せんが、明日のお催しは何かお嬢様としてのお名残だと思うといとおしい心地がいたし

ますので何を置いてもお席には必ず連なります。良人もいつもの偏屈に似ず一緒に伺う

と申しております。全てはお目にかかった時に。

 

   誕生日に人を招く文

 大げさにお文でお招きするほどのご馳走もないのですが、明日は私の誕生日ですので

例年の通り心祝いのお赤飯に粗末な手料理を並べて、さて十分に遊びたく、明日一日は

赤子に帰らせてもらって私の自由にさせてもらいます。私の兄が秘蔵している手遊びの

類、昔のものでとてもおかしなものがたくさんあるのですが、日頃は大事がって私など

には手も触れさせないのですが、お祝いに貸してくださいと頼みましたので、それらを

ご覧に入れたく、必ず朝からいらしてください。お妹様もご一緒にお願いいたします。

   その返事

 明日のお誕生日、かねてより指を折ってお待ちしておりました。妹も何かおもしろい

お祝いを考え出しておほめにあずかりたいと申しておりますので、持参する手箱の中を

占っていてくださいね。お兄様ご秘蔵の品は何だろうかと拝見を楽しみにしています。

あのお眼鏡でお鬚をひねりながら手遊び物を大事がるおかしさ、人形や手鞠などもある

のかしらと妹はまぜかえしております。朝からとのお招きですが、伯母から頼まれた

用事が少々ありますので、これを大急ぎで片づけて正午ごろから参りますのでそのよう

に思し召し下さいますようお願いいたします。すべてお祝いはお目にかかってから。

 

   相談事に人を招く文

 秋もそろそろ寒くなり、野辺のすすきもうら枯れて、霜が降る頃も遠い日ではなさそ

うで心細いことです。さてこの初秋、桐の葉と共にはかない数に入ってしまわれた白露

の君の四十九日が来ます。思い出すことがさまざまあってお文を差し上げることにしま

した。お知りのようにあの方の形見の人はまだ幼いのに後見さえなく、あの広い家の中

に置いておくわけにもいかないのに、親せきなども袖の陰に覆うでもなく打ち捨ててい

るように見えますことが私は気が気でなりません。あなた様と私は共にあの方とは無二

の仲で、ただ姉妹のように交わって来ましたから、お後のことをよそごとに見ることは

とても耐えられません。今も忘れられませんが、ある年、上野の岡の朧月夜に花の陰を

歩きながらあの方が空を仰ぎ涙を目にためて、「このようなのどかな春にいつまで会え

るのでしょうか、思うことは多く体は弱く、もし自分が消えることになったら垣根の柳

も枯れてしまったとただ打ち捨てられて、冷たいお墓の下に入った後誰も訪う人もなく

松の嵐を聞いているのはどれほど心細いことでしょう」と悲し気に泣いたので、「それ

は誰でも同じことですよ、あなただけではありません」とあなたは言いましたが、

「でもお二方はご安心でしょう、この世に煩わしい係累もなく、心にかかる雲がないの

ですから行先が違います。私はなまじ人の親になって頼む夫まで先に失ってしまったの

で、このままこの身が空しくなっても寄る辺がなくて切ないのです。どのようにさまよ

うのか、このことが心にかかっているので、体はなくなっても魂はなおここに留まって

憂きことはさまざまに多いでしょう。今から思っても悲しくて耐えられません」とはん

かちを顔に当てました。その時私たち二人は言葉を揃えて、「あるまじきことですが、

人の世に定めはないのでもし間違ってそのようなことがあれば私たちがいるのですから

あの子のことは心配しないでください、(我が)子と思って育てもしますしものを教え

てしかるべき人にしますから」と言いましたら、お頼みしますとやせた頬に笑みを浮か

べた面影を今も思い出し、誠に今日の占いであったと思われます。それほどまでに思っ

ていたお子様を情けない親族の方々の手だけに任せてはおけません。ことによっては私

が手元に引き取るなり、あなたのところへ置くなり、それができなければしかるべき

学校に頼むなどどうするにせよ早々にことをはからいたく、四十九日が近くなったと

思うと約束を違えないようにという念が堪えがたく、ぜひともこのことについてお心を

伺って、何とか道をたてたいのです。こちらが伺えばいいのですが、人の出入りが多く

てお忙しいところへはいかがかと差し控えられますので、失礼ながらお差支えなければ

明日の午前中か今日の夜分にでも少しのおいでをお願いいたします。帰りは車でお送り

いたします。

   同じ返事

 お文拝見いたしました。ごもっとの仰せで私もかねてより心にかかりながら、お知り

の通り何事も自ら思い立つということのできない性格からひそかに嘆いておりましたの

で、嬉しい思し召しはあの方だけでなくここにいる私でさえ申し訳なく、今夜直ちに

伺ってお話を承り、私のわかることをお話しし、お預かりするなりお願いするなりどの

ようにも取り決めたいものですが、この朝車で出かけていると、何某坂の上で青物を

乗せた車の輪とこちらの車の輪が当たって、どういうはずみか先方はそれほどでもなか

ったのですがこちらの車が横倒しとなり、私はひざ掛けをかけたまま投げ出されてしま

いました。髪も壊れず何の障りもないようでしたが家に帰ってから全身が痛み出して、

身動きすることが叶わなくなったのでにわかにお医者よ何よと大騒ぎが一巡したところ

で、この返事も口でばかり、人に筆を取らせたものです。どうしてもお知らせしません

と規則正しいあなたなので、なぜこんなに遅れているかとお怒りになっているのでは

ないでしょうか。他ならぬ白露の君の今後についての相談に自分の都合で伺わないのは

大変悔しいのですが、このような様を思ってお許しくださり、こちらの門にお車を寄せ

てくださいましたらありがたく、どうしてもこのことは早々に取り決めたいものです。

 

   法事に人を招く文

 明後十八日は亡父の一巡りの忌日に当たります。心ばかりの法会を営み、古くよりの

お知り人にお集まりを願って、粗末なお湯漬けなどを召し上がりながら昔のお話などを

してくださいましたら仏もどれほど喜ぶだろうと、お文でおいでのお願いを申し上げま

す。とりわけ(この日のために)調えさせました蒸し物一重、粗茶一箱を添えておりま

すのでご受納くださいませ。当日は必ずのお出でをお待ちしております。

   同じ返事

 お文一通並びにお志の二品拝受いたしました。思えば月日は早いもので、いつしかお

父君の一周忌になるとは、ただ夢かと思われます。私の方がはるかに年が上なのにこの

ように生き残って今日を迎えるとは、誠に定めはないものです。お志厚いご法会のむし

ろにお招きくださるありがたさ、晴雨とも必ず参上いたします。老いては涙もろくなり

このお返事をしたためるのにもこのように濡れ渡ってしまいました。墨のにじみをお許

しください。

 

   試験に落第した人の元に

 今日下男の藤助殿がこちらの門の前を通りましたので呼び込んでご様子を伺いました

ら、何となく嘆かわしくお思いで大体はお部屋の中にばかりいらっしゃいますとのこ

と、もともと内気なお前様はこのたびのことをお心にかけて沈んでいるのはごもっとも

ですが、試験の及第だけがお名の誉れというわけではありませんし、ご普段のことを知

っている人は知っているのです。このようなささやかなことでお心を痛めてご病気など

を引き出してしまったら、ゆくゆく難しい世の中をどうやって渡っていくのかと思いま

す。このことはただお足もとに小さい石が転がっていることと同じで、おつまづきにな

っても進んでいくのに何の大事があるでしょう。若葉の梢は涼しげになり、春は昨日の

森の下露。大変心地よい昨日今日をそのようにお籠りになって暮らしているのは何より

あってはならないことだと申し上げます。ご両親様でも、この失敗の繕いに身に病を

設けて心配させてくれなどとはおっしゃらないでしょう。恥ずかしいと思うのはお前様

の日常から考えてごもっともだとは思いますが、この頃の振る舞いは私には受け入れが

たいことです。なるべくこの失敗をあれ(いい方)に変えて一層お勉強し、この次には

目覚ましくと思ってくださいますよう願います。誰も憂き世に過ちのない者などはいま

せんし、私はお前様より年上ですのでそれだけ過ちの数も多く、嘆きつつ悔やみつつ

思い返しもしつ、さておいおいと進んでいくことになるだろうと存じます。そのように

思い屈さずに外にも出ていただきたく、こちらの庭では老うぐいすのさえずりが美し

く、藤もようやく景色が見え始めましたので、一日いらしてお茶でも召し上がってお気

晴らししてください。年上の言うことだからとお聞き入れくださいますよう。

   同じ返事

 ご丁寧なお文がありがたく、お礼申し上げます。人々からもさまざまに叱られたり慰

められたりして、もう少し心を広く持ってこの次を心掛けよと言われるまま、なるほど

と思い返し、昨日今日はこの過ちをそれほどには心に留めてはおらず、至極気楽なつも

りですが、まだ外で遊ぶには物憂いようでただこの部屋の内が好ましいのです。花の盛

りは試験に暮らし、若葉の陰もこのような思いで出かけるのが物憂かったので桜に縁の

ない年のようです。藤やつつじの盛りも過ぎたら、田舎の親族のところへ二月三月行く

つもりで、少しはこの失敗を取り返そうと考えています。遊びにいらっしゃい、話をし

ようとの仰せは嬉しいのですが、人様にお会いするのはまだいかにもいかにもつらいの

で、なるべくお会いしたくない気持ちです。わがままで恥ずかしいのですがお許しくだ

さいませ。お詫びを申し上げる折もあることと思いますので、ただかしこまって。

 

   不縁になった人を慰める文

小雨の中で暮らしていますと大変所在のないものです。幼い方はおとなしくしていらっ

しゃいますか、お仲人とはいってもご親戚でもない家にお世話になっていらっしゃれ

ば、お心遣いはどれほどかと思います。そのような様子でいらっしゃることを全く顧み

ない旦那様のお心根は、ここで聞いているだけでも情けないことだと存じます。まして

あなたのお心の内はどうでしょう。結局例の鉱山のことがお心にかなわなかったこと

からご煩悶やるかたなくなり、世などどうにでもなれ、子も妻も自分には不用だとただ

ひたすら飲めればよいとのご乱暴のようで、そうは申してもご道理のない人ではありま

せんからやがて夢から覚めて、さらにあなたのことも恋しくなることでしょう。今こ

は難しい時ですが、お迎えが来ることは決まっておりますから、しばしの憂さだとお忍

びください。どんなことがあってもお気落としのないように、お子様をお大事にご養育

されますよう、この雨のうっとおしさにどうしていらっしゃるかと思い、心ばかりを

書きました。この一重は珍しくもないものですが、幼いお方のお慰めにお目にかけて

ください。すべて時機が来れば巡り来る折をお待ちください。

   同じ返事

 今幼い者は膝で寝入ったので軒端の雨の音が一層淋しく縫物をしても物憂いので、

畳紙を開きながら針箱を押しやって、一人益もないもの思いを続けておりましたところ

あわただしく人が駆け込んでお使いが来ましたと言いました。本当に最近は肩身の狭い

身の上なので、奥に来客が来てにぎやかにしていてもよその祭りだと見るばかり。家の

人ともあまり言葉を交わさず、まして文などが来ることは大変稀なものですから思いが

けないお使いに、もしや間違いではないかと疑われたほど嬉しく、なにか元の身に立ち

返ったような心地がいたしました。お文を繰り返し拝見し、今の所在なさを思いやって

くださいまして幼いものへもお心入れの一重、目が覚めたらどれほど喜ぶでしょう。

この子を喜ばせてくださる方は今日この頃の大恩人です。これが少しでも渋い顔を作っ

て嫌々などと申し出しましたら慰める言葉も尽き果て、人が見ないところでは一緒に

泣き、仰せの通りあの鉱山のことがなかった前は、それほど荒々しくもない人だったの

に生まれ変わったかのような夫の乱行、一つには私が万事に心が届かなかったのでご機

嫌の取りようがよくなかったのでしょう。身には何の罪があるとも覚えがありません

が、家風に合わないと申される仕方なさ、千度お詫びをしても甲斐がなくて今はこの

通り、旅の途中のようにこの家の世話を受けております。誰かが言いました女の宿世の

悲しいことを誠に思い知りました。あの人はあのような性質で一度申したことをさらに

引き返して申すことがないので、取り違っても再びあちらへ迎えられることは叶わない

と思います。今に国元から兄か誰かが引き取りに上京してきましたら、私はこの子を

連れて帰り田舎の人になることでしょう。そうなりましたら春秋の折々に思い出して

いただけましたらお訪ねください。田舎の家には父母もいませんので何かにつけどれほ

ど心憂いことでしょう。これからの年月、この子が成長するまでの苦労を思うとただ胸

が痛みます。このようなこともつまりは愚痴の繰り言で、甲斐のないことを嘆くのは

お恥ずかしいのですが、心の底を打ち割るようなものですのでお聞き流し下さいませ。

これからは全てのことを忘れ果ててこの子の養育に専念することに努めたく、この子を

もらえたことを幸いとして他には何も思いません。ですのでこの地でのようにはいきま

せんが田舎者になっても折りふしのお心添えをなにとぞなにとぞお願いしたく、あまり

の思し召しの嬉しさに用のないことまでお聞かせしました。お使いがどこかへ行くとか

で文箱を差し置いて行ったことを幸いにこのような長いお手紙、後先がはっきりせず、

おわかりにくいだろうと大変恥ずかしいのですが。

 

 

通俗書簡文 十七

   雇人の周旋を受けた人に

 お礼までに一筆申し上げます。このほど数々お手を煩わせるご迷惑なことをお願いい

たしましたが、おかげさまで大変よい人を雇い入れ(ることができ)大助かりでした。

若いのに似ずものの隅々まで気がつき、子供の世話もよくしてくれるので幼い者たちが

早くもなじんで彼女でなければ夜も明けぬように取りすがっております。初めのお話し

では田舎者なので読み書きなどはできないだろうとのお断りでしたので、こちらもその

つもりでいましたところ、幼い者たちが学校から帰って来て復習をしようと書物を取り

散らかし、うろ覚えのところを抜かして早読みをしていると、彼女が横にいてそれそれ

そこはと注意していました。ものを知らぬどころではなく私が推し量るに高等小学校を

卒業しただけでなくその上(にも行って)難しい文字も読んだ覚えがあるように思われ

ます。本人は努めて知らないふりを装っておりますができることは疑いなく、これから

は私が留守にしても受け取りその他も差支えないだろうと大喜びしております。勝手下

で働く女は元からおりますので自然家内の様子に詳しく、威張るつもりがなくても何か

と幅を利かせて新人にはつらいと思うこともあるでしょうが、万事私が心得ていますの

で必ず嫌気(がさした)など言い出さないように、折をみてあなた様に彼女をお使いに

出しますのでお含めおきくださいませ。今まで多くの女中を置いてきましたがこの度

ほど親切で、しかもおとなしく申し分のない人は覚えがありません。なにとぞ長くいて

もらえるようにしたいものです。このような人をお世話してくださいましたお礼かたが

た前記のことお願いいたします。

   同じ返事

 このほどの娘が首尾よくお気に召したとのこと、いかがかと存じていましたがそれほ

どと聞いて喜び、末々までお見捨てなくお使いくださいますようお願い申し上げます。

読み書きのことは、もしかしてと思わぬこともなかったのですが長く田舎の人でしたの

で、昔は昔として、親たちは勉強にまで手が回らずに捨てて育てていたのではないかと

思っておりました。もしできるなどと申し上げてそうでなかったときに言い訳しなけれ

ばならないのでわざと無学だと申したのでしょう。娘をおよこし下さいました時に詳し

く話して不心得のないようにいたします。もっとも、長年苦労をした身ですから大方の

ことには耐えますが、なにとぞ甘やかさずお小言も十分におっしゃってご家風を守るよ

うお躾けくださいますよう、年若いですのでそうは(しっかりしているとは)いっても

手抜かりはさまざまあるでしょうからご面倒を見ていただきますよう当人に代わって

お願いいたします。

 

   饗応にあずかった後その人に

 昨日の花の姿が今も目に浮かんで、仙境で遊んだ人が再び人間に戻ったような不思議

な心地です。ところどころの木陰にかりそめのよしずを立て渡し、田楽をあぶる娘さん

たちの赤い前垂れに風情があって、お茶召せなどと呼ぶ声はうぐいすの初音のよう、

どれもご親戚うちの方とのことで誰様なのでしょうか、大変美しい方もいらっしゃいま

した。今も忘れ難いのはお流れの向こうへ小さい橋を越えて茅葺の何亭とか、額の文字

が半ば消えたようで私には読みかねましたがその中にいらした十四、五ばかりの高島田

のお方が心安くご案内してくださいまして、お庭の中を残りなく拝見し、暮れゆく夕月

がほののくのを、あれを見てください何かの模様によく似て、花の上を行く雁もおりま

すよと指差したもの床しさ、お庭も月も花のその方も自分も絵の中のもののようになっ

て、このことはいつまでもの思い出草でございます。夜に入ってからの(楽器の)音な

どは言うまでもないおもてなしの数々、今まで覚えのないほど楽しみ尽くしましたあり

がたさにお礼の文をと筆を取りましたが、まず何からかとただ素晴らしかったことが

身にしみて頬杖をついたまま目は空にばかりいってしまいます。馴染みがとても浅い

のでお父上お母上にもお目にかからず、あなたにだけでしたことを取り繕ってお礼を

申し上げてくださいませ。何やらおかしな下手な歌などが浮かびましたが、書きつける

のはとても恥ずかしくてできません。

   同じ返事

 園遊会などとはいえず運動会の名の方が似つかわしい、ただ広い野原のような見どこ

ろもない庭の内をご案内したばかりで、ことさらにお招きしながらおもてなしの数も

なくひたすら恥ずかしく思われます。ことよきに従って(よろしければ?)また秋にも

おいでをお願いしますが、その時にはご迷惑などとおっしゃらずに(来てください)。

お歌があるのに惜しんで隠しておしまいになるのですか。特に乞い願うようにと父母

共々申しております。お気に入りの高島田は私の伯母の末っ子でこの頃こちらに引き取

っておりますので、お影(歌?)をいただきに彼女を差し出しますからお文のことが

本当ならばまさか否とはおっしゃいませんでしょう。いつ参らせれはご在宅でしょう

か、ひとえにそのお許しをお願いいたします。

 

   故郷へ帰ると師に

 昨日ご門までお暇乞いに出かけましたところどこかへ行かれたとのことでお目もじを

願いかねてそのまま帰宅してしまい、名残惜しさこの上もありません。いよいよこの

夕方都を離れることとなりましたのでもう一度伺うという願いもかなわず文にての失礼

をお許しください。私がはじめてお膝元へ参りました時はまだ放ち書き(一文字ずつ書

く)の幼さで筆を折れるばかりに握りしめて肘もかたくなにつの字への字の書き誤り、

今その頃の清書を引き出して見るとわれながら不器用で浅ましく、それから幾年もの

お陰によってここはこう、あれはこのようにとご面倒を見ていただいて人に文をしたた

められる身となりましたのはひとえにお恵みの露がかかったためだと感謝し、いつか

ご恩返しをと心がけておりましたが思いもよらぬ迎えが来て、故郷の親類を相続する身

となり、どうしてもお膝元を離れなければならなくなりました。このことを嘆かわしく

存じますが親共の申し付けなのでどうしようもありません。今は仕方なく戻って田舎の

人になっても心は同じではないと思いを決めております。長々のご恩に報いることも

なかったことをお許しくださいますよう、いついつまでもなおお子様の端くれと思って

くださいますよう深く深くお願いいたします。思うことは尽きませんが。

   同じ返事

 いよいよご出立と承り、一度はお目にかかりたいと思いながらすることの多い身なの

で参上もせず昨日はわざわざお出で下さったとのことなのに、何某の会に必ず出席して

ほしいと言われて折悪しく足を空しくさせてしまいました。道もはるかですのでご道中

はお気をつけておいでになるようお祈りしております。お目にかかることができなかっ

たことはやるかたなく悲しいですが、ご親戚のお後が絶たれようとしているところを

お前様が行ってご相続をされれば枯木が春に会うように再びの栄えと思いますので、

このようなことはお勧め申し上げ大変嬉しいことです。お家のことが忙しくなっても

求めれば自然とお暇もできますから夜にでも習字をお努めくださいますよう、今一段階

確かなところまでお進まれますよう、それだけを願っております。彼の地にお着きにな

りましたら直ちに安否をお知らせください、申し上げたいことはまた文にいたしますの

で、お父君母君様はじめご兄弟方にもよろしくお伝えください。

 

   友に代わって恵みを受けた人に

 今だお目にかかってもおりませんのにぶしつけなことをとはばかられますが、お文で

お礼を申し上げます。このほどは浅茅茂子が一方ならぬご恩にあずかり、病中何くれの

ご丹誠、親兄弟でも及ばないほどのご介抱をしていただきました。なじみのないお方に

ここまでのご親切をいただきましたことは一生忘れ難いありがたさだと泣いて語って

おりました。私の身のことは茂子よりお話ししているとのことですので改めては申しま

せんが、この人とは兄弟のように交わってどんなことでも話し合う仲です。ある事情が

あって彼女の家内の様子も詳しく知りながら、自分から手を下ろして助けることが叶わ

ず、泣く時は共に泣くだけで何の足しにもなりませんが、この人を今の工場に出して

いることは思いのほかの、この上もなく情けないことです。兄弟が多い上老いた親たち

もおりますので、煙の代にと気の毒なことをしているのです。私や友達などが申し立て

ても自分たちはそれほど不足もなく過ごしていながら、それを彼女に(分ければよい)

とお思いだろうと恥ずかしいのですが、ここにはわけがあって心のままにもいたしかね

るのです。先月から鎌倉の別荘へ行っておりましてしばらくこちらの様子を知らなかっ

たので、茂子の病気はもちろんあなた様からご恩を被りましたことも夢にも知らず、

昨日帰って今日彼女の家を訪ねると、ご両親をはじめ涙でお話しされたのでもらい泣き

をして、世の中にはこのような人もいるのに恥ずかしいのは友達甲斐がないこちらだと

嘆いたり喜んだりいたしました。もう一日彼女の家にいられましたらお目にかかって何

くれのお礼も申し上げ、これからのご懇意をお願いしたく、ただひたすら懐かしく存じ

られますが、今日午前の内だけと家を出てきたので長くもいられずに帰宅いたしまし

た。茂子が床の中から見送って、必ずお礼の手紙を差し上げてください、口では尽くせ

ないありがたさですのであなたからも共々にと、まだ大変弱々しく申しておりました。

お礼と言っても差し出がましいようで、姉でもない私がおこがましいのですが、はじあ

えず(恥知らずにも?)文を捧げます。一度はお目にかかりこちらの方々の意気地の

ない事情をお話し申し上げ、今後も彼女についてご尽力をお願いしたいと願っていま

す。籠の鳥のような身ですので何の自由もきかず大変悔しいことです。

                   伊東夏子の立場で書かれたような手紙。

   同じ返事

 わざわざをお文をいただき、とりわけお礼の仰せには顔が赤らむ思いです。大した

お世話をしたわけでもなく、彼女のお父様がここに花を売りに来て、何となくいろいろ

なお話しをしている中でお嬢様がご病気になったと聞いて、以前赤十字社の真似事など

をした覚えもありましたので、難しいこととは思いながらはばかりもなく我ながら差し

出がましいことをしたのが今さら恥ずかしいです。あなた様はまだ知らない仲だとおっ

しゃいますが、何某の園遊会でこちらははるかにお姿を拝見しており、まったくお近づ

きがないとも言えません。あなた様とお仲がよいのならご縁はやがてあることと思いま

すので心置きなく任せて介抱させてくださいますよう、お家の事情も茂子さんから聞い

ており、お心苦しいだろうと推し量られます。真の親子の中であっても手箱のものを

費やして人を助けるなどと申すことは、ともすれば支えられ(阻まれ)がちであるもの

をましてお養い親とのお隔てがあるのでは無理のないことです。茂子さんもしきりに

そのことを、私のために親の機嫌を損ねるようではいけない申しておりました。だから

こそ病の様子をご別荘には申し上げなかったのでしょう。誠に心苦しがられておりまし

た。あの人のことにつきましては私も少し考えがあり、病気さえよくなりましたらもう

工場通いをさせるには及びませんので、その時は何とか都合をつけてあの家でも私の家

でもいらしてくださいましたら三人で集まってご相談いたしましょう。私を他人と

思わず親しい人の数に入れてくださいませ。

  

   祭礼に人を招く文

 暑さも少し薄らぎました。みなみな様は何事もなくこの夏をお過ごしされ、ご機嫌も

よいと伺って何よりのことと存じます。さてこちらの氏神様の祭礼が年ごとに足袋裸足

の雲斎(裏)も焦げるばかりの大暑のさなか執り行われるきまりのところ、今年はあま

りにひどい暑さで、悪い病も激しく軒並びというばかりに白い服(喪服)の人々がいる

様子なので、このような時に山車屋台などどうか、またはびこる種になるのではないか

とその沙汰を止めることになりましたが、この二、三日の秋風にもはやそれほどまでの

憂いもないだろうとあさってより二日間、神輿の渡御もあるそうで、山車の数は三十

本、地走りなどの催しもあり、長く封じ込められた名残を一度ににぎやかにしようと

いう氏子中の意気込みが見られます。この町内からも山車が二本出て飾り物など二、三

か所もできるとのこと、今日あたりから青竹の手すりを結うものがあれば山車小屋の

しつらえをするものなど大路は賑わっておりますので、その様子をお坊ちゃま方にご覧

に入れたく、必ず人込みなどにはお供しませんので夜宮にかけて泊りがけでおいでくだ

さいませんか。遊び相手になる小さい子も三、五人は来ますので、桟敷をこしらえて

お待ちしております。

   同じ返事

 ご祭礼につき子供たちをお招きくださいましてありがとうございます。本当に今年は

暑さに遮られて夏中そのご無沙汰もありませんでしたが、この涼風に勢いづいたのでし

ょう氏子中の様子が思いやられます。お言葉に甘えて次男に女中を付けて伺わせますの

でなにとぞお見せ願います。上の子は実家の母を借りに来て十日ばかり留守をしていま

すので伺わせることができません。こちらのいたずら者が他の方々と喧嘩などしでかし

ましたらご遠慮なくお叱り下さいますよう前もってお願いしておきます。

通俗書簡文 十六

   借りたものを壊してしまったことを謝る文

 大変申しにくいことで自ら伺ってお詫びすべきところですが、大変寒いので人を頼ん

でお道具を返上いたします。誠に申し訳ないのは、このお重硯二組のうち青貝摺りの方

の一つを不足して持たせることになりました。お大切なお品の拝借をお願いしながら

いかにも心ない不調法だとお思いになるだろうと恥ずかしいのですが、昨日の会が終わ

った後座布団などを片付けて、さて硯箱を積み重ねようとしました時にどうしたのか

縁が外れていました。これは誰がしたことなのかと給仕の女共に問いただしましたが

まったくわからないと言いますので、では客人かと当惑いたしました。お気に入らない

かもしれないと心苦しく思いながら今朝、繕い物ができる人にできるだけ元のようにす

ることはできないかと持っていきましたので、あと三日ほど拝借をお許し願いたく、

それを持参の上お詫びに参ります。思わぬ過ちにただ汗が出るばかりで、ちゃんとお詫

びも言えないことをお許しくださいましたらありがたいです。

   同じ返事

 おねんごろなお文を、何もそこまでなさらなくてもどこでも人が多いところでの過ち

はあり勝ちのこと。ましてやこの硯箱はこの度だけでなく、いつも縁が外れることが

ありましたし、もしかすると前から外れていたのに私どもで気がつかずに持たせたので

はないでしょうか。ご丁寧にもお直しなど痛み入ります。必ず必ずお心遣いなさいませ

んよう、お使いの人が申すには奥様のお顔がとても真っ青でどうしようと嘆いていらっ

しゃるとのこと、本当にお気の毒でこちらこそ汗をかいてしまいました。そのように

他人行儀なご遠慮は打ち捨ててお心安くしてくださる方が嬉しいのです。いつもご存じ

でいらっしゃいますように、こちらの主は道具などのことなど深くは何とも思わないで

すし、私はもう無頓着な女ですから何のはばかりがあるでしょう、ともかくお気を安く

お持ちくださいますようお願い申し上げます。

 

   留守中に来た人に

 人に誘われて一晩泊りで江の島、鎌倉へと珍しくかたつむりの殻を出ておりました

ところ、昨日帰って留守番の者から聞くと一昨日の午後お車で美しいお嬢様がいらした

のでお留守だと申すと、ではまた来ますと言って帰ったのですがお土産にこれ(をいた

だいた)と見事な一枝を差し出して見せました。この女は田舎の親類で女中代わりに

置いていて、私の家に来てまだ日が浅いのでどなたさまもお見知り申さず、仰せいただ

いた名前さえ忘れてしまったので何度も首を傾けて、見たところお歳は二十歳くらいで

束髪を高く結って、色白で大変美しい方でしたとばかりでしたので私も考えがつかず、

編み物を教えている子爵の姫君お二方の内のお一人か、それとも例の参事官のお妹様か

と知るだけの年若く美しい人を選んではそのお名前を試してみましたが、いえいえそう

ではないようですとさらに誰かわからず、困ったまま昨日が過ぎて、今朝起き出て歯を

磨きながらふと中庭に秋海棠が美しく咲いているのを見て何と素晴らしく心惹かれる花

だろうと独り言を言っていると、縁先近くで箒を持っていたその女があわただしく声を

立てて、それです、一昨日のお方はそのお名前によく似ています。何かいどうと言いま

したというので、では二階堂様ではないかと聞くと誠にその通りと言うので、手に持っ

た楊枝を取り落として笑ったことでした。二十歳くらいだと言わなければあなただと

思いついたはずですのに、お嬢様と聞いて若い人ばかり選んで聞いた愚かさです。確か

に束髪にされていたら人の親には見えませんから、ここの女中が十九二十歳と思っても

間違いではありません。そうとわかればお目にかかれなかったことが大変残念で、稀な

お訪ねに居り悪しき不在をしたことは取り返しがつかないので悔しく思っております。

いただいたものはやっと水引を解いて安心して頂戴し、ありがたくお礼申し上げます。

それにしてももしかすると私にご用があっていらっしゃたのではないでしょうか、お近

くでもない道を、お忙しいあなた様が例にないこととと考えてお詫びかたがた帰京を

お知らせしますので、急なことでもありましたら郵便をくださいませ、お急ぎでなかっ

たら近々私が参上するつもりですのでその時にお聞かせください。ともかくどなたか

はっきりしたことを喜んで。

   同じ返事

 思い起こしたようにご門を叩いたので何事があったかとのお尋ね、特に用があった

わけではないのですが、あまり長く引きこもっていたので少し頭が悩ましくなって家の

ことが物憂く、幼い者たちを一日二日実家へ泊りにやったので、このうちに日頃のご無

沙汰をお詫びしたかったのと、もう一つには大路の風に吹かれて見たくての気慰め、

特別なことではないのでご安心してください。伺えば江の島辺りをご覧に行ったとの

こと、初秋風にお袂を翻して貝を拾う浜の明け方など何とお心地よいことでしょう。お

独り住まいのお気安さはこのような時にとりわけわかるもので、おうらやましさの限り

です。私など右に左に取りすがるものが多いのでついお友達方をお見舞いすることも

かなわず、時たま出れば車に乗っての忙しさで落ち着いたこともありません。頭が痛い

ので髪を解いていつもになく束髪にしておりましたのを娘のように見られたとか、十九

二十歳などやがて我が子の歳になりますのにお目違いももったいなく、この次伺うとき

には何かお礼を差し上げたいのでその人の好物のお品を教えてくださいませ。

 

   取り違えた品物を持ち主に返そうと

 昨日のご散会は遅かったのでしょうか。小雨が少しこぼれてきた上、家から来客が

あるので早く帰るようにと迎えが来たのが心にかかって、失礼とは存じながらご会主に

だけお断りを申し上げてどなたにもご挨拶をしないで中座しましたので、残りの趣向が

いろいろあったかもしれず今になって悔しく思われます。さて、その帰るときに玄関で

私が持参した傘を求めて、数多い中どれがどれとはわからずに、あれこれと選んでいる

と家からの迎えが早く早くと言うその奥に我が名を呼んでいる方がいるようで、心あわ

ただしく大体似ているものをこれだろうと思って差して帰ってしまいました。今朝改め

て袋に入れようと見ると、似てはいるけれども柄のこしらえや房が少し違っているので

どなたかのを間違えてしまってしまった粗忽の罪はどうしようもなく、なおよくよく

見ると先日紅葉狩りの折に一緒に行った道すがら、ほんとうまあ、自然と気の合うもの

は申し合せなくてもこの洋傘の好みの同じことと指さして笑われた、あの傘だと気が

つきましたので人に持たせます。私のをもしお持ち帰りならお渡しお願いいたしたく、

申し訳なかったお詫びはその内お目にかかった時に詳しく申し上げます。

   その返事

 昨日は急にお影が見えなくなったのでどうしたのかと心配し、密かにご会主に伺いま

してやや心を落ち着けましたが、あの後は大したこともなくて、人々の帰ったのは暮れ

少し過ぎた頃でしたが私は特に遅れてお暇乞いしました。傘のことは私も持ち帰って

から気がつきましたので、もし私が先に帰ったらきっと間違えて持ち帰ったに違いませ

んからご丁寧なお言葉に痛み入りました。いうまでもなくお傘は返上いたしますので

お引き取りくださいませ。お手すきでしたら遊びにおいで下さるのをお待ちしておりま

すが、特別なお詫びなどはご無用にしてくださいませ。お返事まで。

 

   注文の期限が遅れることを良人に代わって謝る文

 いつもお変わりなくご繁盛のご様子を、恐縮ながらおめでたく嬉しいことに存じて

おります。私は絶えてご機嫌伺いにも出ず良人からしばしば叱られておりますが、鳥の

巣のような束ね髪を少し取り上げてなどと思っていると、あちこちからのお誂えが間に

合わず、それ下縫い、釦付けなどと追い使われて、男も女も兼ねた目まぐるしい日を

送っておりますので申し訳のないご無沙汰になってしまいました。さて、先日お申しつ

けの若旦那様のお洋服一揃え、今日までとお急ぎでしたので夜を通してでも必ず間に

合わせる覚悟でしたが仲間内に少し難しい沙汰がありまして、良人がその仲裁の役割を

勤め昨日は手打ちということになりましたのでどうしようもなく出て行ったのですが、

ご存じの通りお酒の弱さが一通りではないので夕方過ぎに帰るとそのまま高いびきで

一晩空しくなってしまいました。今朝は未明から取り掛かっておりますが今日の日暮れ

までに飾りみしんまでできますでしょうか。お急ぎと承りながらこのようなことになっ

ての申しわけなさ、以前からお誂えしている大店もあります中、私が(お宅へ)ご奉公

しておりましたご縁から(腕も鈍いのに)この新店に申し付けられてくださいました

かたじけなさからどうしても仰せの通り仕上げて差し出すべき心得でしたが、思わぬ

ことからの手違いで良人はひたすら恐れ入っております。お詫びに行くこともできませ

んのでお前が代わりにありのままに申し上げてお許し願って来いとのことですが、私に

とってもお敷居は高いようでお伺いいたしかねますのでお使いにて一切のお詫びをいた

します。明日こそは必ず必ず仕上げて持参いたしますので、最初からこのような手落ち

をしてどう思われるか恥ずかしいことですが、取り繕わない真実を申し上げてお許しを

お願いいたします。

   同じ返事

 お頼みしましたものが今日中には難しいとのこと、倅がこのたび大阪の本家まで遊び

を兼ねて参りますのでその時用にと思い、前の心づもりでは明日の二番汽車にて出立の

予定で今日までという期限を申しておりました。ところが同業者の相談会が臨時に開か

れることとなり明後日飯田河岸の富士見楼に集まることになりましたが、いつもそのよ

うな場所へ出席することが大嫌いな父親が、倅の出立を延ばして代理を勤めさせた後で

ということになりましたので、明日中にできましたら全く差し支えありませんので、

そのように恐れ入らずに間に合わせていただきたく、お連れ合いにもそのようにお話し

くださいませ。

 

   人の家の盆栽を子が壊した時

 今長太郎が帰宅し、子守につけていた竹が申すには、今日は一日目白様にご厄介に

なり、さまざまおもしろく遊ばせていただき、お庭も大変広いものですからお子が喜び

ましたまではよかったのですが、さて、おいた(ずら)様が大事をいたしましたので

付添いの私は手に汗を握りましたとその始終を話しました。本当にそれはもってのほか

のことで、旦那様が日頃ご秘蔵されて、一方ならず丹精されていた鉢植えの昇り龍と

いうその葉の縞も並々ならぬ万年青を、この暴れ者がふとした間に走り寄って、お縁に

ありました花ばさみを取って無残にも切り刻んでしまったと、聞いただけでも驚きに

口がふさがらず、ご立腹のほどはいかがばかりかとただただかしこまって身が縮むよう

です。いかに年がいかぬとはいっても分別のないにも限りがあると、日頃のしつけを

思いやってお蔑みになっているだろうと思うほど恥ずかしくて、顔が上げられない心地

です。お前が付き添いながらなぜそのようないたずらをさせたのかと竹に小言を申し、

もちろん長太郎にも厳しく言い聞かせましたが、ただ返事だけよくして、もののわきま

えなどあるべくもなく、幼いものといってもこのようないたずらでない子もあるという

のに我が子だけがと情けなく思います。すぐさま私がお詫びに出なければなりませんの

に、旅行中の良人がこの夕方に帰京しますので出迎えはここでと親類の誰彼が集まって

まいりまして、どうしても出ることができずお文にてのお許しをお願いいたします。

そのうち主人と話し合ってお心にはかないませんでしょうが、その葉に似たものを求め

てせめてものお詫びを申し上げたく、旦那様へのおとりなしを幾重にもしてくださいま

すようお願い申し上げます。終日ご厄介になった上にこのような過ちをしでかしました

こと、お詫びの言葉も考えられません。

   同じ返事

 誰も一度は幼かったもの、いたずらは子供の常です。私は今だに子を持ってはいませ

んが、それほどの思いやりがないことはありません。何か事々しくお詫びくださるまで

もなく、ましてや代わりなどのご心配はご無用にしていただきたく、主人もただいま

役所から帰ってまいりましたのでこのような有様だと申しましたところ、長太郎殿の

いたずらか、さてさて子供の成長は早いものよと、最近まで起き返ることができるくら

いだと思っていたのに鋏を自由に使えるようになったのか、そのうちに敏腕家と言われ

るようになるだろうと大笑いしました。ですので全くご心配には及びませんし、つまら

ぬお心遣いをかけるのもやり切れませんので、旦那様がお帰りになっても必ずお沙汰の

ないよう(不問)にお願いいたします。このようなことがあると気の毒だと長太郎さま

をおよこしにならなくなってはこちらの淋しさが耐え難いですから、なにとぞ変わらず

にお貸しくださいますようお願いいたします。右のことだけ申し上げます。

 

   不参加のお詫びを約束した人に

 この降る雨を恐れてだと人が言うだろうことが悔しいのですが、常々意気地のない身

ですのでその申し開きながら誠にやむを得ないことがあって、今日のお集りの数に漏れ

ますことをお詫びいたしたく、少しの時間で申すばかりの走り書きが見苦しいのです

が、この文を捧げます。最近のご連中の中でいつか見た覚えのあるくちなし様とやら、

きわめて物静かなお方が会にいらっしゃっていることでしょう。(彼女が)無言の辻を

こちらの方へ曲がらせた時私はお後から傘を差しかざしてまいりました。今日の茶話会

にはたとえ雨が降っても風が吹いても必ず出る覚悟で、きまりの時間に合うよう家を出

てあの辻まで急ぎましたところ、くちなし様のお袖をするばかりにして向こうより来ま

した車の人が私を呼び止めて少し何か聞こうとしました。何かと聞きますとかくかく

しかじかの番地を知っていますかと私の家を申しますので、不思議に思ってあなた様は

どなたですかと聞きますと、遠国に嫁した伯母がはるばると訪ねていらしたとのこと、

写真で面影は知りながら先ぶれさえなかったのでこの辺で会うとは全く思いがけず、

怪しげな作りごとのように驚いたまま家に連れ返りました。そういうわけで今日のお席

に連なることは難しくお詫びの文をしたためております。日頃休み勝ちの私が理由を

つけてなどと思われることが悔しいですが、こういうありさまだと書いておきます。

私の後から来るくちなし様にお尋ねになっても確かなことです。いつもの怠りではない

ので、これまで固く申し上げたのにお違約した罪の行き場はありませんが。 

   同じ返事

 お文を多くの中で読みましたところ、さすがのくちなし様もお笑いになって、誠に

その通り、あの辻まで来たことは間違いなく、お車のこともあったようだけれど振り

返っては見なかったのでわかりません。ただここへ来てずいぶん時間も経っているのに

どうしてかいらっしゃらないのは、さては中途で引き返してしまったのだと思います。

誠に今日のご不参は怠りではないですよといつも口の重い人が珍しく証人になってもの

を言ったので大変おもしろかったです。そのようなことでしたら今日は仕方がありませ

ん、この次の折は必ずと今からお願いいたします。包みもの一つ、お使いに持たせます

のはこの席にての食べ物です。中途まではいらっしゃったあなたにあげないとけちに

なりますから。たいしておいしいものではありませんのでこのお使いに下げ渡してくだ

さい。

通俗書簡文 十五

    友の不養生を諫める文

 昨夜も夜更けまで読書されていたようで、私が二階の窓から見下ろしましたら、川を

隔てたあの柳に見え隠れする軒の燈火が鮮やかでした。大方の人が蝶よ花よと浮かれ

立つこの頃の空の下でお引きこもりになってお勉強するのはたゆみなきお心の表れで、

だからこそ(勉強も)進んでいるのだと頼もしく思いますが、他の人とは違い弱いお体

で昼は一日、夜は更けるまで休みなくお努めするのはこの上もない不養生です。この

ほど聞いたところでは、なんとなくお目が悪くて細かい字などを書くのが苦しいとの

こと、燈火の下でご本を読むにしろお筆を取るにしろどちらにしても昨夜のように夜更

かしをなされては容易ならない大事になります。ご熱心はさることながらお身の上をお

大事にしてください。何をされるにしても身と心が確かでなければできません。何事も

気長に考えてすることがよいのです。私は試験前でしたから仕方なく珍しく昨夜は遅く

まで物を調べておりましたのでお燈火を見ましたが、あの夜遅くどこに起きている人が

いましょう。岸の柳が風になびいて燈火が見え隠れする様子は、何もなければ絵のよう

だと言いたいところですが、私はただただ気がかりで眺めておりました。今朝橋を渡っ

てお顔を見ようと思いましたが寝坊してしまい学校へ行く時間となってしまいましたの

で、今思うことを申し上げなければ悔しいのでお文にしてお使いに持たせました。ご両

親ご兄弟の中にもご案じになって心を痛めている方がおありだと思ってご用心ください

ますようお願いいたします。かいつまんで。

   同じ返事

 掛け違って昨日も今日もお目にかかることができず、お返事は口でと思っていました

が甲斐がないので筆にしてお机に残しておきます。本当にご親切なお諫めを、私の体を

思ってくださればこそだと申し訳なく、お文を捧げ持って拝見いたしました。かねてよ

り諭されておりましたので私のわがままから夜更かしをするのではありませんが、わけ

もなく眠り難く床に入っても思いがいろいろ湧き出てきて胸苦しいので、ついつい燈火

を掲げては用もない書物を取り散らかしたりするのは病気のせいでしょう。これからは

努めて外出もして気を晴らすようになるよう心がけますので、そのうち元気になって

お心遣いいただいたご恩返しをいたします。ご心配くださっている目の悩みはもう大体

よくなって、引き続き養生すれば問題なく治りそうですので、ご安心のほどお願いいた

します。試験中は何かと忙しく打ち解けてお話しする時間もありませんが、滞りなく

お済ませの後は一日、都を出て遊びながらいろいろなお話をしたく、それだけを待ち

望んでいます。

 

   退校しようとしている友を諫める文

 いずこも同じ秋の夕暮れなどとことさらに思い嘆いていらっしゃるのでしょうか。

せっかくこれまでお励みになってきた学校を理由もなくお辞めになるお心だとのこと、

それは私には受け取り難いことです。もっとも上級生の誰彼があなたを妬んでよろしか

らぬ作りごとなどを言いふらしたのでご迷惑がかかったことはかねがね知っておりまし

たが、そのぐらいのことがなんでしょう。夕べの月に雲がかかっても晴れれば元の光が

現れます。お耳を遠くして、それほど物事を気にせずに何もかもを捨ててお過ごしなさ

い。あの学校の人たちがおもしろくないからといって、またよそへ移っても全てお気に

合うようなことは稀で、友を選ぶと言って友を探して世を尽くすようなおかしなことを

するのはわざわざ都へ出てきた元のお心と違うのではないでしょうか。私がお世話して

いるからといって理を非にしてもと申すのではありません。おおよそ半年ほどお馴染み

になって校長の気風や教頭の品行などがわかったでしょうが、あの人々に点を打つ

(批判する)ところはないのです。正しい道だけを歩めばそのほかの雑事はどのように

でも耐えられます。ただ一筋にお勉強してご帰郷を一時も早くしようと思ったらいいの

ではないのでしょうか。今あなた様が人から憎しみを受けるのはお学問が進んでいるの

で、侮り難く妬ましいと思っているからなのだと平らな心でそう思って見れば、一段下

の人たちにつまらぬことを言われて、それに悩まされて退校するということになった

ら、あなたの思案が若くてその人々に負けたことになるのです。すべてを目の中に入れ

て(?)争いなさいと勧めているのではありません。塵よりも軽い人々を心から摘んで

捨ててしまえばことはないですし、そのほかにもさまざま申し上げたいので是非お目に

かかり、お考えを伺いながら私の意見を申したいと思うのですが、何か落ち着かない

ようでしばらくお尋ねがなく、こちらから伺うたびにいつもお留守でいることを嘆いて

筆に言わせることにしました。私はあなたのことをよかれと思うよりほかの心はないの

ですから、もし私が知っているほかに嫌なことや耐え難いことがあるのでしたら隠さず

におっしゃってください。ことによっては無理にお止めすることはありません。この文

は私が知っているだけのことを申し上げただけですので。

   同じ返事

 お文で自分の身の罪を思い知りました。これほど隔てなく教え聞かせていただいた

ものを、もし私の心のほかのお諫めを言われるのでは侘しいので今までご門も叩かず、

なるべくお顔を見ないようにと逃げていた心が恥ずかしく、今は真実を話してお詫び申

し上げます。学校のことはさまざまでお文に書き尽くすことのできない厭わしさですの

で、近いうちに伺って詳しくお話て、今後の心得の数々承りたいです。ただひたすらの

わがままだけだとは思わないでくださいますようお願いいたします。誠に昨日の夜は

やるかたのないほど胸苦しくて開けたら直ちに旅立つ支度をしてこの地を発とうとまで

思っていましたが、なぜかとはお聞きにならないでください。お会いしてすべてお話し

いたしますのであさっての土曜日でなければ日曜日にお伺いしたいと思っております。

 

   雇人の不注意を知らせて都の親族を諫める文

 日に日に暖かくなり、都ではやがて花の木の下は賑やかになる頃ですね。こちらでも

菜の花が咲き出しました。この野遊びという蝶を追い、摘み草をするということは都で

はしないことでしょう。こちらの隣の弥兵衛という人がこの頃雇った十二歳ばかりの

子守で小利口に見える娘が、この月十日に、まだ生まれてから十月に足りないが末には

あの家の柱ともなるべき一粒種の男の子を背負って左衛門原の日当たりで摘み草をしよ

うと籠を持ち出して、幼い子をくるんだまま少し小高い丘のようなところにある榛の木

の陰に寝かせておいて自分は小刀を手にして低い方の水たまりで芹だの何のを余念なく

はるか遠くのほうまで行って摘んでいたところ、あわただしく赤子の泣く声があたりに

響き、肝がつぶれるように聞こえたので何事かと籠も持たずに小刀を逆さに持って駆け

つけると、どこから来たのか大きな犬がもう赤子の耳を食いちぎって今腕を噛もうとし

ているところだったので驚きながらも気丈な子だったらしく、石を拾って投げたそうで

す。子供ではあっても一生懸命の様がすさまじかったうえ光ったものを持っていたので

それらに驚いたのか犬はそのまま逃げて行きました。赤子はまだ息は少しあったそうで

すが、人々を呼んで家に連れ返った頃には息も絶えて救いがたいことになりました。

これも自然の災いとあちらのご主人は諦めて言っておりましたが、たった一人の子でし

たのでどれほど(悲しいこと)かとこちらはただただ涙で野辺送りを勤めました。これ

を思うと小さい子のお守りをするということは注意すべきことだとよそ事ならず案じら

れて、雨が降らないうちに雨戸を下ろしなさいというのと同じように、益もないことを

言うとは知りながら、便りのついでに一言差し出しますのはひとえにあなたが大切だと

思うからです。この前生まれた娘の子供がようやく起き返りなどして可愛らしくなった

と聞いて写真を送ってほしいと頼み楽しみにしていましたのに、女中の竹という者が

おもしろく遊ばせようと両手に高く上げると急に立ち眩みがして、自分の身も支えかね

て転げ倒れて赤子を投げ出し、火鉢の角で頭を強く打ったとか。その後ひきつけで亡く

なったことを思い合わせると、そのことが原因なのではないかと残念でした。このこと

からも、さても今年素晴らしく男の子を授かった嬉しさ、こちらもその近くいる身です

から日夜に心づけ、人手などには渡さずに引き取ってお世話するべきなのでしょうが、

そのようなことはかないませんので一段と心配ですからこのような文を出すのです。

子守は子供にさせるものではありませんし、大人といっても気が早り勝ちで落ち着かな

いものは無用にするべく、思わぬ過ちなどがあっては後々取り返しのつかないことに

なります。お前ももう子供ではないですから伯母のいつもの世話焼きだと苦く思うかも

しれませんが、その地にはしかるべき親戚もおらず親御様は早く亡くなってしまったの

ですから、ご様子はどうなのだろうと思い患うのです。春蚕が終わったら都見物がてら

その地へ行っていろいろお話ししたく、浅ましい例を見たのでお聞きに入れてご用心の

ためにと申し上げます。いずれお目にかかった時に、この度はこれだけを。

   同じ返事

 今朝店先から顔を差し出してこれは田舎の伯母様からですのでお受け取り下さいと

そこに差し置いて立ち去った人がいたとかで、店の者が急ぎ来てこれこれと告げました

のでさては伯母様からのお使いだろう、お返事を書くから少し待たせてと言いましたが

早くに出てしまって影も見えなくなってしまったので仕方なく、お湯さえも出せずに、

あの人は誰だったのでしょうか。失礼の罪をよくおとりなしくださいますようお願いい

たします。お文を巻き返して拝見いたしました。ご丁寧なお心添えをいただいてありが

たく、何もかもに心が届かず、言って教えてくれる親のない身ですので何かと心細く

思っているところに闇夜の燈火のようにも例えられるお言葉、これをお導きだと頼り、

なお欲深くお近くで明け暮れお世話していただけたらと及ばぬことが望まれます。お隣

の幼い子が、悲しいことになったことを聞くと身の毛がよだつようで、おっしゃる通り

ここでも怪しいことがあって娘さんが一人空しくなったのですから、他人事とはさらに

思えません。この辺りは家が軒並び、摘み草できるような原はありませんが、二町ほど

離れた川に鮒の子を釣ると言って子供が集まるので、こちらの丁稚がよく見に行きたさ

から子守を名目に出かけるのです。もし人のまねをして水に入るようなことになったら

そのうち背中の子がうるさくなって、粗末にすることはなくても思いのほかの過ちを

起こすことがあるかもしれないと思ってこの頃は背負わせて外に出すことはさせており

ません。中働きの少し歳のいった女の子に任せていますので、恐れながらご安心くださ

いませ。特に最近は大変丈夫になって虫気はもちろん風邪の憂いもなく、引き伸ばす

ように大きくなりましたのでこれもお喜びくださいませ。春蚕のお忙しい頃を過ぎたら

ご出京されるとのこと、それは誠かと夢のように嬉しく思います。子供を持つとどれほ

ど汽車が便利になったとはいってもそちらまで行くことは叶い難く、いつお会いできる

かと心細くしていましたのに思いがけない思し召し、亡き母が帰ってくるようで嬉しく

て嬉しくて、必ずお出でになってくださることをお待ちしています。主人からもご無沙

汰のお詫びをよろしく申し上げ、ご出京の折はお出迎えをしますからその時は詳しく

教えてくださいますようにとくれぐれもの申しつけです。ただお返事とお礼のみ、尽く

せぬことはまた次にこそと筆を止めます。

 

   何かあって仲が絶えた友達に

 このほど上野の公園でお影をほのかに見かけたのですが、お心をはかりかねてお後も

追うことができず空しく眺めて、帰ってきてからはかない思いが日毎に沸き返っていま

す。お怒りに触れるかもしれませんがお詫びを申したくそろそろとこの文をしたためて

います。とはいっても筆の甲斐のなさ、思う心の千のうち一つも書けずにしばしば紙を

丸めては泣いています。できることなら墨のにじみを思いやって、お憐れみをいただけ

ないでしょうか。このように隔たってしまったことの元を静かに思い巡らせれば、どの

ような行き違いから月日に渡ってお心が解けず、門の柳に月の霞む夜、さあ合奏しまし

ょう、早くおいでなさいとのお誘いや、ましてや春雨のつれづれに歌でも詠みましょう

という訪れなどもかき絶えて、忘れてしまったようなお振る舞い。お心安さのあまり

失礼な言葉を考えずに言っても昔ながらの習わしだとお許しくださいますでしょうが、

その他に何がお気に障ったのでしょうか、いろいろと考えるのですがどうしても思いつ

かないと打ち明けて、お考えのほどを伺うよりほかありません。私は国元を出て初めて

あの女学校へ伯父に連れられて行った時、お友達もないので恥ずかしいことは言うまで

もなくただ汗になって、かがんみこんでいたところをお前様が見かねて歳はいくつか、

今まではどこの学校で学んでいたのかなどと優しく聞いてくださったときのありがた

さ。それからはただただ(あなたの)お袖に縋って学校への行き帰りもご一緒に過ご

し、卒業した後も大方の人はそのまま別れしまって会うのも同窓会の春秋のみとなり、

それも全員は寄り合うこともなくなるというのに、なお毎日睦まじくして、仲良しの

お手本と言えば必ず引き合いに出されるほど珍しいもののように言い騒がれていたの

に、最近の有様はよそ眼にはどんなにおかしく見えることでしょう。これは私の罪なの

でしょうか。覚えがないと言ってしまうと舌が長い(生意気な)ようですが私にはわか

りません。嘘偽りなく過ちなどしていないのに世界が変わったようになってしまったの

はどうしてなのかとみじめに思われます。しかしこれは私のわがままな言い分で、知ら

ないところでもし過ちがあったのでしたら今までの言葉はおもしろくないことでしょう

し、お心にかなわないからのお怒りだとしましたら弁解すべきはして、お詫びすべき

ことがあったらどのようにでもいたします。私はただただ姉上と思っておりますのに、

お心にかなわないからといって何もおっしゃって下さらないのは情けないことです。私

が少し思い当たることとしてはある人にわけあって私をあなた様から引き離すよう心が

けているのではないかという疑いはありますが、それを言わないのはもし間違いなら罪

の上に罪を重ねてしまい、その人の憎しみが恐ろしいのでもう何も書きません。思う

ことが胸に積もり積もって書きすぎてしまいうるさいことでした。いろいろ思いを巡ら

せて私に誤りがないと、もし見出してくださいましたら、もう昔のような交わりに戻る

ことは難しいかもしれませんが、それならそれまでだと思いを絶って悲しみ嘆くことは

しません。ただこのようなまま疎遠になってしまうことが悔しくて私からは隔てのない

心を見せたいのです。あわれにも書き尽くすことはできませんが。

   同じ返事

 夕べの空に月はあっても雲がかかれば道はたどたどしくなります。思わぬことから

疎遠になってしまい、言わなかっただけで私も同じように思い嘆いておりました。思い

切ったようなお言葉をあなた様に先に言われてしまっては、私も今さらお返事しようも

なく、ただお互いの思い違いで、仲がよければこその争いだと笑っていただけることを

願っています。お文の中のある人が何か言ったというご推量は当たらずとも遠からぬと

いったほどとお含みくださいませ。それはそれとして(その)人を傷つけないように

してください。結局私の心が短くて深くものを考えず、怒る時は一筋に、例の獣が後先

考えないことと同じなのでこのような奸計に陥るのです。最近少し気がついたのですが

おかしなことになりました。さて、このまま打ち絶えてしまえば今後どうなるだろう、

淋しくなるのでお詫びの文を書こうとしましたが、知っての通りの負けず嫌いがこのよ

うな時にも妨げになって、書いては破り書いては破りしました。嘘ではありません、

手箱の中には反故紙が未だに納めてあります。昨日のお文を見てから年若いあなた様の

お気の練りように驚かされ、思えば私はまだまだ子供だったと汗をかきました。疑った

のは私の罪で、疑われたのはあなた様の災難だったと思ってください。深くは何も尋ね

ずにただ元のままにと思ってくださいましたらと願っています。仲直りというのはおか

しいですが久しぶりに胸が開きました。お話しもしたいですからこの夕方私の家まで

おいでくださいましたらありがたいことです。ではその時に何もかも、ここでは昨日の

お返事まで。

 

体調悪悪おばさんの食生活

 本当に湿疹が治らないの不愉快。このために(というかもともとは飲むからカロリー

減の為だった)揚げ物は極力食べず、お菓子も控えめにしているというのに…。という

わけで毎日何を食べていつが悪いか書き出して見る、ってここんとこずっと悪いけど。

 おかずは手作り、お弁当はたんぱく質と野菜1対1で数日分作って冷蔵か冷凍して

おく。夜は一鍋で済む炒め物か冬はほとんど鍋物。総菜を買う時はお寿司かお刺身、

時々揚げ物。練り物や加工品も日常的には食べないようにしている。

 調味料は小豆島の無添加醤油とそれで作ったつゆの元(醤油、酒、昆布、干し椎茸に

その時ある鰹節か混合節か煮干し)を使用。韓国味が好きなのでコチュジャン無添加

生活徹底できず)に生姜とにんにく、葱を合わせたものを作っておいて何かと使う。

鶏がらスープは骨付き鳥や鳥ハム調理時にとっておいて使う。

 ケーキがあるのはこのところ人から野菜をもらうので、お返しに焼いたもの。作るの

が好きで食べるのは味見と称している。島糖使用だがマーガリンなのでよくない。

 きのこ類は冷凍して保存、何にでも放り込む。弁当の魚は塩鯖か塩鮭が多いが(鮮魚

が安かった高知が懐かしい)最近鰤が安いのでよく使う。生の鯖があったら味噌煮、生

鮭や生鱈を買った時は酒と味噌に漬けて冷凍。鳥は手羽か胸肉、豚は大体こま切れ、

牛は月に一回くらいの贅沢。ひき肉は肉詰めやガパオ、キーマ、ミートソース、麻婆、

つくねなどを作って冷凍。餃子や春巻きなど食べたくなったら休日に作る。果物を食べ

るのはもらった時だけ。

 

朝食 牛乳 白菜と油揚げとなめこの味噌汁(ご飯なし、時々納豆を味噌汁に入れる)

弁当 豚肉巻き蓮根、切り干し大根煮

常夜鍋(豚肉、豆腐、ほうれん草1.5束)つゆの元+お酢あれば柑橘

 

朝食 牛乳 コーヒー 味噌汁

弁当 ぶりの柚子胡椒(母手製)煮 ほうれん草胡麻和え

家人の誕生日をすっかり忘れていたが、自分用に買いためていた普段よりちょっとよい

おつまみ系でカヴァを飲む。ささみスモーク、スティルトンチーズ、オリーブ、タカギ

ベーカリーのバゲット10年ぶりに売っててやっぱりうまい!田舎ではこれしか楽しみが

ないのだから廃盤にしないでほしい…。

 

朝食 牛乳 コーヒー 大根と油揚げとえのきの味噌汁(ご飯なし、時々納豆入れる)  

弁当 生カツオ(あら)のコチュジャン煮、小松菜胡麻和え

キムチ鍋(大根、えのき、しめじ、葱、豚バラ肉)

 

朝食 牛乳 コーヒー ダークチェリー入りチョコレートケーキ

ランチ 小鉢いろいろ付き新そばご膳

フライング飲みつまみ 塩えんどう

ブロッコリー入り麻婆豆腐

 

朝食 牛乳 コーヒー 味噌汁 柿

弁当 牛肉ごぼうマイタケ煮、ブロッコリー

芋炊き(大根、里芋、人参、ヒラタケ、手羽先) ブロッコリー味噌マヨ添え

 

朝食 牛乳 コーヒー 柿

昼食 豚とヒラタケ炒めの混ぜご飯おにぎり(お弁当用のおかずを使わなかったので

   流用) 味噌汁 みかん

フライング飲みつまみ ライ麦パンとチーズ

生牡蠣レモン、セロリ、塩辛添え豆腐 残り物

 

朝食 牛乳 コーヒー トースト ベーコンエッグ 柿 

昼食 キャベツいっぱい辛味噌ラーメン 

ちゃんちゃん焼き(葱いっぱい、じゃが芋、人参、キャベツ、バター)

 

朝食 牛乳 コーヒー 豚とヒラタケ炒め入り(これも流用)大根味噌汁 

   アップルジャムのケーキ

弁当 ぶりとしめじと葱醤油煮 きんぴらごぼう 大根酢漬け

カリフラワー蒸し焼き ひよこ豆のクミン炒め 残り物 

この日より皮膚炎の薬を飲むため禁酒。

 

朝食 牛乳 クロックマダム(鳥ハムとチーズ) りんご

弁当 豚肉とザーサイ炒め(干し椎茸、ニラ) カリフラワーカレー酢漬け

ホワイトホワイトシチュー(玉葱、カリフラワーいっぱい、マッシュルーム)

 

朝食 シチュー残り プンパーニッケル(たまに買って冷凍しておく) コーヒー

ランチ そば大盛り(そば祭り期間なので頻度高い) 

ひよこ豆のチリビーンズ 赤大根千切り

 

 ひよこ豆、長らくおいていた1キロに虫がわいてた!!!捨てるのは惜しく水を20回

くらい換えて食われたのを捨てて、ゆでた後さらに食われた感じのものを捨てても4分

の3以上残ったので調理したり冷凍したり、心なしか味は落ちているがまあ大丈夫。

クミン炒めしたらにんにくのみじん切りと相まって虫がよみがえったように見えた。

 

 さてオンライン診療でもらった薬を飲み始めて3日目、だいぶ楽になったがこれは仮

の姿。薬にもステロイドにもいつまでもは頼れない、冬は始まったばかり。服との接触

とお湯が悪いのでどうしようもなく、揚げ物と砂糖はこれ以上減らせない(こともない

がたまにはねえ…)あとは牛乳と小麦粉、時々1週間くらい止めてみるがあまり効果が

ないのは期間が短いからか…。騙し騙しやっていくしかない。

 

 

 

 

 

 

 

オンライン診療を受ける

 というものを受けてみた。皮膚炎の悪化のためだが、40分かけて皮膚科に行って2時

間半待っても、ちらっと患部を見られて適当なステロイドをもらうだけなのだから変わ

りはないと、調べた日に空き時間があったので腰の重い私だが早速申し込んだ。

 多少周りが写ってもよい部屋は照明が少し暗かったが、ひどい首回りと背中を出せる

ようにしてスタンバイ、時間少し過ぎて看護婦(?)による問診、アプリで患部の写真

を撮るように言われ、ズームでそのまま診てもらえるのかと思っていたので慌てる。

家人を呼んで撮ってもらうがわからないことが多く、看護婦はすぐに察して教えてくれ

たが、どのような写真になったかわからなかった。その後5、6分待って先生と話すの

だが、聞かれたことが看護婦と同じで意味がなかった。がもうそういうことも想定内な

ので気にしない。ステロイドと飲み薬を出してもらえさえすればよいのだ。

 事後アンケートには、もしできるなら写真をあらかじめ撮れるようだったらもっと

はっきりした写真を送れたと思うと書いたが、診療というからにはその場でなければ

いけないのだろうか。症状や経過も書いて送れたらなおよいと思った(まともに読んで

くれるとは思わないが、せめて要点を察してもらいたい)。

 土曜日だったので翌月曜日の朝、指定していた近所の調剤薬局から連絡が来る。

田舎なので取り寄せて、で混ぜるって!?なので夕方できるとのこと。今晩から使えた

ら上等、次の休みが水曜だったのを待てずにとった処置だったのでこれでよかった。

費用はほぼ同じでオンライン診療代として1100円余計にかかったが(再診は500円)、

車の運転と待ち時間合わせて4時間のお代として、時は金なりということで。

 それにしてもこの皮膚炎の理由が知りたい。接触性だということは、座っていて、

寝ていて当たるところなのでわかる。最初は化繊の服からだったのでこの4年は綿100%

しか着けていないがもうこれも刺激になるのだろう。じゃどうしたら?裸でいるしかな

いがここは雪国、フルタイム職。上着を着るようになってブラジャーは即止めたがタイ

ツ(綿混)は欠かせないので湿疹は肩と胸の下から背中全体と腰回りにもできるように

なった。そして一番悪い首回りがどうにも…全体がもろもろとしてものすごくかゆい!

首開けて布団も当たらないようにしているのに。でもこれで風邪ひかないのだから慣れ

ってすごい!南国に暮らしていた時でさえ冬中二重タートルで過ごしていても、年に一

度はかかっていたのに雪国来てから一度も風邪ひいてないのだ!もともと丈夫なのだが

ストレスと不摂生のため迷いの身となったのだった。風邪には煙草を止めたことも効果

があったかもしれない。声枯れは治らないけれど。

 今晩から飲む薬は一週間分しかないし、また出してもらって日常的に飲むのは好まな

い。ステロイドもそう。今年8月に同じ処置をして小康状態になってから3か月、その時

以上に範囲が増えて今後どうなるのだろう…。更年期の症状だと信じて(生理前が一番

ひどいので)もういいかげん来るだろう終わりを待てばいいのか、なんかそんな気が

しないな。

 

 

 

 

 

 

 

通俗書簡文 十四

   家を売りたい人の年老いた召使いに

 昨日お垣根の外からお庭をのぞきながらも伺うこともせずに行き過ぎてしまいました

ことをご存じでしょうか。なんと痛ましく荒れてしまったことか、まさかこれほどとは

思っておりませんでしたので、とても心細く思っていらっしゃるだろうとよそながら

袖を濡らしました。ご門をくぐろうかとは思いましたが、ご主人様にお目通りすること

がいかにも心苦しく、申し訳ないことと知りながらそのまま行き過ぎてしまいました。

折からの秋風でお障子の上の破れがすさまじい音を立てるのが、表から見てもあらわで

すので隠れようもないと思っているだろうと、あの優しくもの恥ずかし気な奥様のお気

持ちを考えますと会っても何も言うことができません。このような中でお暮しのお慰め

とも頼りともなるあなた様のお心配りはいかばかりでしょうか。このほどおっしゃって

こられた、お家をいよいよお手放しにならなければどうにもならないとのこと、あまり

急ぐと今の世の人は心弱い人を助けることがないですから、玉を瓦と言い下げて自分の

利のみを謀ることでしょう。まして世話人という者が手をかけましたらひどく浅ましく

憎いことをするに違いありません。私もさまざま考えて、よい人がいたら相談しようと

心がけてきましたが、さてこの人にはと打ち明けられるような人がいないもので思案に

余っております。倅が少し大人びて世の役にも立つようにもなりましたら、人手を借り

るまでもなくお為になることができるのでしょうが、このほど打ち明けてくださいまし

た、お財政がたいそう派手やかなりし頃の名残のご衣装など、私どもの少々(の金)で

済むことではありませんからこちらの小倅のやせ腕で何ができましょう、ただ集まって

お噂をして嘆いているばかりですが、よその人にはどう思われていますでしょうか。

お殿様がいらっしゃいました世では浅からぬごひいきをいただいて、亡き良人など数知

れず助けていただきましたのに、及ばずとも今のお身の上にできる限りのお力添えを

したく心を砕いております。私の知人の中で昔はそうでもなかったのですが今は北陸辺

りで名の聞こえる財産家になり、今年新しく多額納税の貴族院に昇った人がいて、この

十一月の末頃、議員招集の前までに必ず上京されるそうです。この人は男気のある人で

頼まれごとがあったら後には引きませんでしたが今はどうでしょうか、三年ばかり前に

会った時も若いのにかかわらず涙もろくいらしたので、いらっしゃったらお身の上を

よくお話しして、引き渡した後は(家は)小さくとも静かにお暮しになって、お手すさ

びの編み物の教授でもして、ともかくものどかに世を過ごせるくらいの額を整えて出す

ようにさせたいと思っていたのですが、このほど聞いたところではすぐにも譲りたいと

思し召しだということでした。それはどうしても得策ではないと思いますので返す返す

失礼なことばかり並べますが、もしこの一月ほどお待ちになるのにお差支えがあるので

したら、そのくらいのことは何とでも致します。昔ながらの鷹揚な風に慣れていらっし

ゃいますから、私どものような隔てない話をこのように聞かせましたら失礼だと思われ

るかもしれませんので、言葉よく取り繕ってこの旨お聞かせくださいますよう、同じ

思いで胸を痛めておりますので、浅はかかもしれない知恵を顧みずにあなた様に申し

上げます。

   同じ返事

 昨日ご覧になって通り過ぎて行かれたとのことですので、初めてのように申し上げて

も煩わしいでしょうが、お返事をしたためようと筆を取れば涙がただただこぼれて、

最近の様子を思いやってくださる人に知ってほしく、しばしの憂さをお話ししようと思

います。お文にありましたように奥庭の垣根などは浅ましく破れてしまい、私の田舎の

弟が来ました時にともかく繕うようにと申しつけましたがこの男は不器用で、ご覧に

なったようにまばらに結ったので大路から(見ても)軒端まであらわになったので悔し

く、お障子の際に屏風を立てておきました。そうすれば南向きですのでとても温かく、

奥様はいつもこの部屋で縫物やそのほか取り散らかしていますのを、人が見ても気にも

なさらなくなっておりますが、昔ながらの私は何かもったいないような心地がいたしま

すなどと人が聞けばお笑いになることでしょうし、あなた様もお笑いになるでしょう。

このような昔者がお付添いして大層にお仕えしておりますので、今の世の様がいよいよ

わからなくなってこのようにやるかたないほど落ちてしまいましたのは、半ばは私の罪

でございます。先日あなた様をお訪ねするまでは何事も自分の胸一つで苦しんで、老い

ては何かと物の理解も疎くいよいよ戸惑って子供にも劣ります。眠れぬ夜の床の幻に昔

がよみがえり、前の殿様がお若衆姿で黒羽二重のお振袖に優美な繻子のお袴で乗馬の

お稽古をされるのを見ていた時もあり、奥様はまだ姫様と申し上げてお稚児髷が美しく

絞りの襷が華やかな、勇ましい薙刀を使っているのを見たこともありました。驚いて

目覚めては、このようなありさまでどのようにお仕えできるのかと急に胸が轟くように

なって長く思案するのも耐えられずに寝ているような覚めているような、おぼつかない

まま夜を明かすこともしばしばでございます。このような甲斐のない老人を頼りだと

思ってくださるほどの奥様ですから、何もかもを推し量り憐れみくださる古いよしみに

縋り寄って、よろしいことでしたらまだしもこのような次第をご覧に入れることは主の

ためには申し訳ありませんが、他でもないあなたに打ち明けお頼みしましたのでした。

そうしましたらなんと昨日のお文、お志深くさまざまお考え下さったことの嬉しさは

もちろん、奥様もただ涙ばかりでございました。どのようにでもひたすらお頼み申し

上げます。額につきましては申し上げましたように難しいことですから、売り払うこと

さえ叶えばそれ以上という望みはありません。まだ残ったお道具などもありますが、

ささやかな所へ引きこもった後まで蒔絵のものが散らかっているのも見苦しいですから

これらも取り添えてことごとく新しい世を迎えたいという気持ちです。全てお取りはか

りくださいますようお待ち申しております。

 

   友の驕りを諫める文

 この春の花盛りにご宴会を催すとのことでわざわざ人をよこしていただきましたが、

思うところがあって伺いません。お舟遊びや何やらとご趣向を凝らして人目を驚かせる

ようなことなどもあるとのこと、招かれて行くのは嬉しいようですが、私はどうしても

ご同意することができません。昨年までは毎日のように伺って、今日はご馳走するもの

がないから夕飯をあがらずにお帰りなさいとおっしゃられても無理な我儘を言って、

自分でお櫃を棚から取り下ろし、お母様のお小言を聞きながら箸を取ったこともありま

した。あの時いただいたお湯漬けの結構だったこと、今お前様が八百善や何やと取り

並べてご馳走してくださるに増してどれほどおいしかったことでしょう。私がずっと

訪ねないことを少しはお心にかかって、どうしてご無沙汰しているのかお考えでしょう

か。それとも忘れてしまっているのでしょうか。どちらでもよいですが私は申すことだ

けは申したいのです。思えばお母様がいらした頃のお宅の様子は、誠に世間のお手本の

ようで私などはお近づきでいることが身の栄誉だと思い、人にも話して自慢をしており

ました。たった一年、まだ指を折れば三百六十日にもならない今日この頃の毎日のお振

る舞いはどうしたことでしょう。結局あなたはまだ世の中のことをご存じなく、人が

褒めることがいいことだと思って、陰で謗られていることに気がつかないからの過ち、

お姿が派手になっていまさらの島田髷を人は三十振袖と言っているのですよ。一昨日私

の親戚が歌舞伎座に見物に行ったとき、高土間五つを取り払わせたお宅のご一族全盛の

様子を見たそうですが、特に目立ったのはあなたのお姿で、近江屋の後家様のお形見か

と昨日ここへ来て逐一語ったことでした。お母様がいらした頃には芝居は春秋二度の

見物、それも質素に平土間をお取りになり、おかかりは大方(予算は大体決まってい

た?)の定めだったことはいつもご一緒していました私が知っております。もし金蔵に

唸り声が聞こえて土台石に金剛石を据え置くほどの身代だとしても、無駄な驕りの末が

栄えたとは聞いたことがありません。このことをよくお考えになってお身持ちを堅固に

して昔のあなたにお立ち返りになるよう願っています。そばに番頭殿もお女中頭のお富

士さんもいながらこれを止めないのは私はいかにもいぶかしく感じられます。絶えて

お伺いしないのは私の心が変わったのではなくて、あなたの周りのありさまがどうして

も拝見するに忍びないからです。だからこそこのようにご無沙汰していますが心はいつ

もあなたのことだけを心配しています。今日はどうしているのか、昨日のご様子はこう

だったと逐一聞き込んでおります。筆よりは口でとは思いますが、芸人などがたくさん

周りにいて変におもしろおかしくしている中で苦いことを申し上げるのもいかがかと

差し控えてお文でご覧に入れます。まだ申し上げたいことはたくさんありますが、こち

らがいちいちお身の上の詮議立てをして証拠を取り並べてもどうなるものでしょう。

ただ昔から仲良しだったあなたが世のもの笑いになっていくことが悔しくて、それだけ

を申し上げたく、人に意見されて行いを改めるなど大嫌いなご性分であることは昔から

知っておりますから、お怒りに触れれば私はこのままお目にかかりませんし、一生憎ま

れても少しもお恨みしませんので、お心一つで思い返して、なにとぞご家業に精を出し

て陰で指を差されないようになってほしいと祈っております。

  

   離縁したいと言う人に

 ただいま寺参りから帰って娘に聞けば、先ほどお前様がいらしてしかじかとお話が

あったと、思いもよらないことで驚いております。もはやお子達も大勢いらして今さら

恥ずかしことなど起こることもなく、内輪もめというのは池の面のさざ波と同じように

絶えずあるようには見えてもたいしたことではないものです。なるほど始めの頃に比べ

ればご無理もおっしゃいましょうしわがままなお小言などおもしろくないこともあるで

しょうが、それは親しくなってご遠慮がなくなったから、隔てがなくなったからこその

お打ち解けなのですから深くはお心に留めない方がよろしいのです。旦那様がこの頃

しきりにお酒を召し上がり、気が荒々しくなって外出がちになったとのこと。このよう

な時にあなた様から丸からぬことを言い出せばこと破れてどのようなことになるでしょ

う。言い古された言葉ですが覆った水が器に帰らぬように戻ることは難しくなります。

お子様たちをどうしようというのですか、もとより相生の松は名ばかりで夫婦は離れも

の、縁が切れたらそれきりになってしまうとは誰もがよく申すこと。その時何であのよ

うな短気なことを、そこまで怒らなくてもことは済んだのにと後々悔やむことが恐ろし

いのです。こちらは仲人の身ですから、偏ってお前様だけが悪いとは言いませんが、

ただ女同志の打ち解け話は一割損だと思ってご辛抱することです。まだあなたは夫婦

お二人でお姑様もいらっしゃいませんから何事もお気楽なのですよ。こちらは長年の

辛苦、それはずいぶんと話の種になるようなつらいことでしたが、何とか過ごせば過ご

せるもの、このようなおばあさんになり、子供たちに面倒を見てもらうようになって

その頃の取り返しができました。何事もお子達を思って短気はご無用にされますよう

に。今娘から話を聞きましたがとりあえずお文を参らせます。そのうち顔を見て色々

申し上げますが、くれぐれも今日おっしゃったようなことはいつだって言ってはなりま

せんよ。早まっては取り返しがつきませんから。

   同じ返事

 つまらないことを言い出しまして、お心配をおかけしましたことを恥ずかしく思いま

す。ご存じの通り心安いままわがままを言って、人の親にもなって子供のようにわけも

ないことをいたしました。さきほど伺いました時お留守でいらっしゃいましたので、

申し上げずに帰ろうかとは思いましたが胸がもやもやとしてやるかたないままお嬢様に

お話をしてしまいました。それは心得違いだとお嬢様にもご意見されましたが今考えれ

ばらちのないことですが、本当に後先考えぬ短気、立ち返って見れば自分ながら思案の

ほどがわかりかねます。今お詫びのお文を出そうと思っていましたところにご心配くだ

さってのご郵便、いよいよ恐れ入って身が縮むようです。仰せの通りこぼれた水は元に

戻らず、再びこの家に帰ることができなくなったらこの子たちを見ることもできなくな

るような情けないことになり、考えても身の毛がよだちます。もうあのようなことは

申しませんからなにとぞなにとぞ里の両親にはこのことは内分にしておいてください。

いらぬ心配をおかけするのが心苦しいのと、二つには弟の嫁に私のことを見下げられる

のが恥ずかしいので。お詫びにはいずれ近い日に伺いますが、お礼ながらもうあるまじ

き考えなど持っておりませんことを申し上げたく、ざっと書きました。