2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

あきあはせ

雨の夜 庭の芭蕉が大変よく伸びて、葉は垣根の上、やがて5尺を越えるだろう。今年はどう したのだろう、このように丈の低いままでなどと言っていたのに、夏の終わりにとても 暑くなって、ただ一日、二日、三日を数えずして驚くばかりになった。秋風がそよそ…

随筆

ホトトギス鳴く5月の初め、菖蒲の根のように長い付き合いの友同士が集まって小田 原評定(重臣会議)をした。この頃の新聞で、埼玉県大宮の公園をおもしろいところ、 趣があるところ、しゃれたところ、風流で雅なところだと記者様がむやみにお褒めに なって…

すずろごと

ホトトギスの鳴き声をまだ知らないので、どうやったら聞くことができるだろうと恋 しがっていると、訪れていた人が「聞こえないことがありますか、私の家にある大木に さえ止まって鳴いているものを。夜更けに心してみなさい。近くで聞くとただ怪しげな 声に…

反古しらべ その他断片

Ⅰ 虫干ししようとかび臭い反古をたくさん取り出している中に、亡き兄が残した様々な 書き物があった。事細かに記して残してあったのは、亡くなった夏、頭の病が起こる前 の月に心を集中して書いたものだ。もう一つは霜凍る冬の夜、毎晩必ず父母が寝室を のぞ…

お疲れさまでした。 7月20日 風雨がひどい。午後2時頃、思いがけず三木さんが幸田氏を連れて来て、初めてお会 いした。「私は幸田露伴です」と名乗る様子をつくづく見守ると、色が白く、胸の辺り が赤く、背は低くてよく肥えている。話す声に重みがあって…