2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

樋口一葉「うつせみ 一」

一 家の間数は三畳の玄関を入れて五間、手狭ではあるが、南向きで風通りがよく、庭は 広々として植え込んだ木立が生い茂り、夏の住まいにはうってつけに見える。場所も 小石川植物園の近くで物静か、多少の不便はあるが申し分のない貸家である。門柱に 貸札…

馬場孤蝶「寄席の女」

一 近頃では、寄席へ出る女で、人気の凄まじい程有る女というのは聞かぬ。式多津とか 歌子というのは、少しは若い人の噂にはのぼるのではあるが、それを真打にしてやって 見たところで、幾らも客を呼べまいと思う。 橘之助が真打でやって行けるのは、長年の…

馬場孤蝶「落語」

一 父祖三代以来も東京に定住して居られる純東京の人々に対しては、真にお気の毒な ことだが、今の東京は、余程吾々田舎者に取って、住み好い土地になって来た。風俗 も、習慣も、それから、言語さえも、吾々田舎者が、そんなに不自由をせずに済むよう な程…

馬場孤蝶「義太夫の話」

関係ないけど(kawaii) 一 僕は少年の時分から、義太夫を聴くのが好きであった。慥か、明治二十一年頃と覚え て居る。姉が、土佐へ旅行したことがあった。その時、姉は、女義太夫の弥昇というの を、旅宿の座敷に呼んで、聴いたことがある。弥昇は、その後…

馬場孤蝶「東京の天然」「東京の女」

先日久しぶりにお濠というものを見てよかったが、この写真が以下の内容に合って 嬉しい。そして真夏の真昼時の、時が止まったようなあの感じも大好きなので嬉しい。 一 少し間暇(ひま)が出来さえすれば、何うしても何処かへ旅行せずには居られなかっ た時…

坐骨神経症とどうでもいいおばさんの不健康日記

キンポウゲが好きだが、北国のものは大きくて何か違う感じがする。調べるとその ままオオウマノアシガタとは…北国はタンポポもハルジョオンもでかい!長い冬を耐え たという感じでがんがん咲く。ついでにアリもでかくて怖い! キンポウゲという名は栽培種の…

馬場孤蝶「故摂津大掾」

波が折れる瞬間の透明部分が好きだがなかなか撮れない。 一 明治の義太夫界の巨人と仰がれ、近代絶倫の美音と称せられた竹本摂津大掾は、此の 程八十二歳を一期として、白玉楼中の人となってしまった。 僕は此の人が摂津大掾と改名してからは、折悪く一度も…

馬場孤蝶「文化の変遷と寄席の今昔」

一日この中で海風に吹かれていたい… 古き寄席の思い出 まだ、その外には、交通の不便などがあって、短時間のうちにそう遠方まで遊びに 行くことはできなかったので、人々はその住居の最寄最寄で、娯楽の場所を求めなけれ ばならなかったというのも、寄席繁昌…

馬場孤蝶「文化の変遷と寄席の今昔」

海が見たいがために五浦へ行って思いがけず岡倉天心の勉強をした。 寄席対小劇場 僕等の少年の時分には、寄席は平民娯楽場の中心であったのだが、現今では、そうで はなくなってしまった。 昔でも、寄席以外に娯楽場の種類が幾つか在ったには在った。が、そ…

樋口一葉「琴の音」

空の太陽も月も変わることなく、春咲く花ののどかさは浮世の全て同じであるが、 梢の嵐はここばかりに騒ぐのか、罪のない身に枝葉を散らされる不運。まだ十四という のに雨に打たれ、風に吹かれ、たった一人の悲しい境涯に漂う子があった。母はこの子 が四つ…

昔の寄席 馬場孤蝶

関東以南に住んでいた父が何度も買っては枯らしていたシャクナゲを思い出す。着る ものでもなんでも赤を買う男だった。ここでは何もしなくても毎年咲く。がさすがに 今年の大雪で、一番好きな白いシャクナゲが消えてしまった。何もしなさすぎの罰。 五 竹町…

樋口一葉「暁月夜 二」

この思いが通じさえすれば心休まるだろうと願うのは間違いだ。入り込むほどに欲が 増えて、果てのないのが恋である。敏は初めての恋文に心を痛めて、万が一知られたら 罪は自分だけではない、知らなかったとはいえ姫も許されまい、さらにあの継母がどれ だけ…

樋口一葉「暁月夜 一」

桜の花が梅の香を漂わせて柳の枝に咲くような姿だと、聞くだけでも心惹かれるよう な人が一人で住んでいるという噂、雅な男がその名に心を動かして、山の井の水に憧れ るような恋もある。香山家と聞こえるは、表札の従三位を読むまでもなく、同族中でも その…

昔の寄席 馬場孤蝶

これ昨日の写真 一 雨の音しめやかな夜などに、独り静かに物を思い続けて居るうちに、今まで別にそれ 程遠い事のようには思って居なかった自分の少年時の事などが、成る程随分前の事で あるのに気が附くことがある。 五十位な吾々に取っては、自分から俺は老…

秋日散策 馬場孤蝶

渋谷あたりの追憶 下渋谷の道玄坂の中程から左へ入ったところの丘の上の、名和男爵邸のなかの家に 与謝野寛君が住っていて、そこを僕が訪ねたのは明治三十四年の冬か翌三十五年の春か であったと思う。与謝野君はそれから少しして、その近くの崖の下の、回り…

樋口一葉「軒もる月」

久しぶりに読んで見たら、一葉が恋を諦めた心の流れを見るようで感じ入った。 我が夫は今夜も帰りが遅い、我が子は早く眠ってしまったので、帰ってきたらがっか りするだろう。大通りは月が凍り、霜が立っているのでそれを踏む足はどれだけ冷たい ことだろう…

近世風俗雑談 馬場孤蝶

思っていたよりつまらなかった。大分お年を召してからの回想記のようで、であった かと思う、ばかりだし、自分で言うように無粋なので内容が少ない… 明治から大正へかけての話 風俗と云えば主として、服装、髪の形、履物等のことを、いうべきなのであろうが…