2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

樋口一葉「たけくらべ 五」

十二 信如がいつも田町に通う時に、通らなくても用は済むが近道となる日本堤の土手の 手前に間に合わせの格子門がある。のぞくと鞍馬石の石灯篭と萩の袖垣がしおらしく 見えて、縁先に巻いたすだれの様子も懐かしい。中がらす障子(中央がガラスになって い…

樋口一葉「たけくらべ 四」

九 如是我聞、仏説阿弥陀経、声は松風に和して、心の塵も取り払われるべきお寺様の庫裏 (台所)から生魚をあぶる煙がなびいて、墓地に赤子のおむつを干してあるのも宗派に よっては構わないことだろうが、法師を木っ端のように思っている(枕草子、粗食し …

樋口一葉「たけくらべ 三」

六 「珍しいこと、この炎天に雪が降りはしないかしら。美登利が学校を嫌がるのはよっ ぽどの不機嫌、朝ご飯が進まなければ後で寿司でも頼もうか。風邪にしては熱もない から昨日の疲れというところでしょう。太郎(稲荷)様への朝参りは母さんが代理で して…

樋口一葉「たけくらべ 二」

三 解いたら足にも届くような髪の毛を根を上げて固く結び、前髪が大きく髷が重たげな 赭熊という名は恐ろしいが、これがこの頃の流行だと良家の令嬢も結うのだとか。色白 で鼻筋が通り、口元は小さくはないが締まっているので醜くはない。一つ一つ取り立て …

樋口一葉「たけくらべ 一」

一 (ここから)回ると大門の見返り柳まで長い道のりだが、お歯黒溝に燈火が映る三階 (妓楼)の騒ぎは手に取るように聞こえる。明け暮れなしの車の行き来にはかり知れな い全盛を見、大音寺前という仏臭い名だが大層陽気な町だと人は言う。 三島神社の角を…

樋口一葉「にごりえ 四」

七 「思い出したって今さらどうにもならない、忘れてしまえ、諦めてしまえ」と心を 決めながら、昨年の盆にはそろいの浴衣をこしらえて二人一緒に蔵前(の焔魔堂)に 参詣したことなどを思うともなく胸に浮かび、盆に入ってからは仕事に行く気力がなく なっ…

樋口一葉「にごりえ 三」

五 誰が白鬼と名付けたか、無間地獄(銘酒屋:私娼を置いた居酒屋)を風情あるように 作り上げ、どこかにからくりがあるようにも見えないが逆さ落としの血の池地獄、借金 の針の山に追いやるのもお手の物だと聞けば、寄っておいでよという甘い声も蛇を食べ …

樋口一葉「にごりえ 二」

四 客は結城朝之助といって自ら道楽者と名乗ってはいるが折々実直なところが見える。 無職で妻子なし、遊び盛りの歳なのでこれを始めに週に二三度通ってくる。お力もどこ となく懐かしく思うようで三日見えなかったら文をやるようになり、朋輩の女たちは や…

樋口一葉「にごりえ 一」

一 「おい木村さん、信さん、寄っておいでよ、お寄りといったら寄ってもいいじゃない か、また素通りで二葉屋へ行く気だろう、押しかけて行って引きずって来るからそう 思いな。本当に風呂なら帰りにきっと寄っておくれよ、嘘つきだから何を言うかわかり ゃ…

樋口一葉「十三夜 二」

父親は先ほどから腕組みをして目を閉じていたが、「ああお袋、無茶なことを言って はならぬ、わしも初めて聞いてどうしたものかと思案に暮れる。お関のことだから並大 抵ではこのようなことを言い出しそうにない。よくよくつらくて出てきたと見えるが、 それ…

樋口一葉「十三夜 一」

一 いつもは威勢のよい黒塗りの(自家用)車で、「それ門に車が止まった、娘ではない か」と両親に出迎えられるのに、今夜は辻で飛び乗った車を返して悄然と格子戸の外に 立つと、家内から父親の相変わらずの高い声、「いわば私も幸運な一人だ、おとなしい …

樋口一葉「われから 四」

十 我と我が身について悩み、奥様はむやみに迷っている。明け暮れの空は晴れた日でも 曇っているかのよう、陽の色が身にしみて不安に思ったり、時雨が降る夜の風の音は、 人が来て戸を叩いているようで、淋しいままに琴を取り出して一人で好みの曲を奏でる …

樋口一葉「われから 三」

七 お町が声を立てて笑うようになって、新年が来た。お美尾は日毎に安らかならぬ面持 ち、時には涙にくれる日もあるが血の道のせいだと本人が言うので、与四郎はそれほど 疑わずにただただこの子の成長することだけを話して、例の洋服姿の見事ならぬ勤め、 …

樋口一葉「われから 二」

四 浮世に鏡というものがなければ自分の顔が美しいのか醜いのかも知らず、分をわきま えて満足し、九尺二間(貧しい家)に楊貴妃や小町を隠して、美人が前掛けをかけて (せっせと働く)奥床しく過ごしたことだろう。なにかと軽薄な女心を揺さぶるような 人…

樋口一葉「われから 一」

一 霜夜も更けて、枕元に吹くともなく妻戸の隙から風が入り、障子紙がかさこそと音を 立てるのも哀れで淋しい旦那様のお留守、寝室の時計が十二時を打つまで奥方はどうし ても眠ることができず、何度も寝がえりをして少し癇性の気が出て、いらない浮世の さ…

樋口一葉「うらむらさき」

夕暮れの店先に郵便脚夫が投げ込んでいった女文字の文一通。こたつの間の洋燈の下 で読んで、くるくると巻いて帯の間に収めると(落とさないかと)立ち居の気配りが 並大抵ではなく、顔色に出ると見えて結構人(お人よし)の旦那様がどうかしたのかと 聞く、…

痛い痒いおばさんの手記 その後

カモメが砂浜で海を見ている。こういうのあまり見たことなくておもしろかった。 10年位前に両手首の鈍痛に悩まされ病院に行ったが相手にされなかった。その後機織 りに出会って没頭し気にならなくなった。その頃一度腰に電気が走ったことがあり、 これのひど…