2022-09-09から1日間の記事一覧

樋口一葉「われから 四」

十 我と我が身について悩み、奥様はむやみに迷っている。明け暮れの空は晴れた日でも 曇っているかのよう、陽の色が身にしみて不安に思ったり、時雨が降る夜の風の音は、 人が来て戸を叩いているようで、淋しいままに琴を取り出して一人で好みの曲を奏でる …

樋口一葉「われから 三」

七 お町が声を立てて笑うようになって、新年が来た。お美尾は日毎に安らかならぬ面持 ち、時には涙にくれる日もあるが血の道のせいだと本人が言うので、与四郎はそれほど 疑わずにただただこの子の成長することだけを話して、例の洋服姿の見事ならぬ勤め、 …