2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

樋口一葉「たま襷 二」

洗い髪を束髪にして、ばらの花の飾りもない湯上りの浴衣姿、素顔の美しい富士額が 目に残る。世間は荻の葉に秋風が吹くようになったが、蛍を招いた団扇と面影が離れ ない貴公子がいた。駿河台の紅梅町に名高い明治の功臣、千軍万馬(つわもの)の中の 一人と…

樋口一葉「たま襷 一」

そろそろ大団円、というか奇跡の4年の作品に入る。初期の作品は終わりがはっきり しないか死ぬ、絶世の美女のお涙頂戴物のように思って読み流していたが、訳してみる と一葉の経験らしき場面や、登場人物の変な行動にも訳があったり、女主人公にちゃん と考…

樋口一葉「五月雨 二」

四 男も女も法師も童子も器量がよいのが好きだとは誰が言ったか色好みの言葉だろう。 杉原三郎と呼ばれる人は面差しが清らかで立ち振る舞いも優雅、誰が見ても美男子で 罪作りである。自分のために二人が同じ思いに苦んでいるなどとは思いもよらず、若葉 の…

樋口一葉「五月雨 一」

一 池に咲くあやめ、かきつばたのように(甲乙つけがたい)鏡に映る花二本、紫では なく白い元結をきりっと結んだ文金高島田、同じ好みの丈長(リボン状の紙の飾り)は 桜模様、あっさりとしてほのかに色香が漂う姿には身分の差がなく、心に隔てなく、 喧嘩…

樋口一葉「ゆく雲 二」

お縫にしてもまだ年若いので桂次の親切が嬉しくないわけはない。親にさえ捨てられ たような私のようなものを気にかけてかわいがってくださるのはありがたいとは思う が、桂次の思いに比べるとはるかに落ち着いて冷静だった。「お縫さん、私がいよいよ 帰国し…

樋口一葉「ゆく雲 一」

酒折の宮、山梨の岡、塩山、裂石、差手の名さえ都人の耳に聞きなれないのは、子仏 峠、笹子峠の難所を越して猿橋の流れにめくるめいても、鶴瀬や駒飼も見るほどの里で もなく、勝沼の町といっても東京の場末のようなところであるからだろう。甲府はさす がに…

樋口一葉「闇桜」

隔てというものは間にある建仁寺垣(竹の垣根)に譲って、共同で使う庭の井戸の水 の清く深い交わり、軒端に咲く一本の梅の木が両家に春を知らせ、香りを分かちあう 中村と園田という家があった。園田の主人は一昨年亡くなり、相続は良之助という二十 二歳の…

樋口一葉「この子」

口に出して私が我が子がかわいいということを申しましたら、さぞ皆さまは大笑い されるでしょう、そりゃあどなただって我が子が憎いものはありません、とりたてて 自分だけが見事な宝を持っているように誇り顔をするのはおかしいとお笑いになるで しょう、で…

樋口一葉「花ごもり 二」

四 これは瀬川様ようこそ、と玄関に女中の高い声を耳ざとく聞いて、膝に寝ていた子猫 を下ろし読みかけの絵入り新聞を茶箪笥の上に置き「お珍しい、何の風に吹かれていら っしゃいました、谷中への道は忘れてしまったかと思っていましたのに」と、障子の内 …

体調悪悪おばさんのちょっと気をつけてる毎日

昨年の写真だけど涼を。 いやいや…ビダール苔癬かと思われたものが昨年は夏には軽くなったのに今年はずっ と続いている。わかってきたことは、女性の体調変化前には猛烈に痒くなること、これ はもうどうしようもなくて、もう終わる歳なのでそれを待つばかり…

樋口一葉「花ごもり 一」

一 本郷のどことか、丸山町か片町か、柳や桜の垣根が続く物静かな所に、広くはないが 小綺麗にして暮らしている家があった。当主は瀬川与之助という昨年の秋、山の手に ある法学校を卒業して、今はそこの出版部とか編集局とか、給料はいくらほどになるの か…