に行った。尾崎翠が生まれた町である。そこで生誕120年祭があり、少し遠いので迷いに迷ったが、「第七
官界彷徨」の映画を撮った浜野佐知監督がその後、湯浅芳子と中條百合子を描いた「百合子ダスビダーニャ」
を撮っていたことを著書で知りまたその著書にも感銘を受け、脚本家山崎邦紀氏のブログを見ると翠ほか文学
に造詣が深く、魅力的な題材で映画作りをするこのお二方にも興味を持ったので、思い切って行くことにした
のだった。久しぶりの一人旅、鉄旅も楽しみで未知の国へ向かった。
会では浜野監督と吉行和子の対談があり、元気な監督と、ユーモアあるマイペースな和子節の掛け合いに
笑いが絶えなかった。吉行理恵が翠ファンだったことを初めて知ったが、当然といえば当然ですね。その後
上映された「第七官界彷徨 翠を探して…」は読者を裏切らない美しい映画だった。「第七」部分は不思議
感が嫌味なく表現され、ドキュメンタリー(ちょっと昭和な作りも懐かしく)の方は、翠の生き方が誠実に
描かれていた。子育てや生活に追われても晴れやかな翠役の白石加代子さんの笑顔や、林芙美子や城夏子が
出る過去の場面、最後の砂丘の幻想シーンが印象的だった。
その後の交流会では町を挙げての歓待を受けた。サザエ、イカ、カレイにエビ…さすが日本海の幸はすばら
しい!翌日遊覧船乗り場でお土産に買って帰ったイカの足の一夜干しが、絶妙な塩加減で、ふっくらとして、
そりゃもーうまかったこともつけ加えておきます。
一泊した早朝、浦富海岸を歩く。
恁うしてしずかな日にあけぼのの浜を歩んでいると絶え切れない歓喜が胸に漲ってくる。 (あさ)
刻々と晴れて美しくなってゆくので、同じような写真をたくさん撮ってしまった。
翌日、映画に使われて効果的だった小学校舎や、
翠の産まれたお寺や、「無風帯から」に巨獣の脊骨のようなと描かれた山など見て、
憧れの海、翠が代用教員時代に朝夕海を眺めた網代港に来た。漁村らしい細い路地を登って、翠が
下宿していた場所にも行った。降りてくると家の軒先で魚屋さんを開いていて、近所の人がぼつぼつ
と買いに集まる景色が懐かしかった。
砂丘の後ろに長く伸びているのが青谷の岬とのこと。雲間には大山らしき姿…
今春路の胸のなかを覗いてみたならば、青く影ひいたかすかな青谷の岬があった。
(悲しみのころ)
着いた直後から帰る直前までの食事まで、遊覧船にまで乗せていただいてのおもてなし、
帰りの車中はお土産の貴重な資料集を読み、最後まで翠の世界に浸れた幸せな旅でした。
主催者とスタッフの方々、町の方々本当にありがとうございました。