通俗書簡文 四

 寒々しい場所で川を見ながらひとりランチ。インスタやめると写真も撮らなくなる。

(もともと見せるものもないのに友人への近況報告と、こんなに雪が降るんじゃアピー

ルだったので飽きた)国民割も紅葉も、こんな寒々しいところにいるとどうでもよく

なってしまった。紅葉したら雪が降るだけ…ラニーニャで決定的となったし。

 

   新茶を人に贈る文

 西ヶ原の別荘の茶園にこの頃人を雇い入れて(お茶を)作らせておりますが、今日

初めて少しばかりできましたので、本当に一服ほどしかありませんが、ご風味ください

ましたらありがたいことです。こちらでは遅く咲いたつつじが見頃です。近くの麦畑も

黄色くなって、何ということもありませんがよい景色です。茶摘み唄の風情をお聞きき

に一日おいでになりませんか。私は毎日行っております。

   同じ返事

 珍しいものをいただきありがとうございます。急いで火桶に炭を継ぎ足しておりま

す。いつも申し上げることですが、よい場所をお持ちになっておうらやましく、どれ

ほどお楽しみでいらしているかと思われます。茶摘み唄、つつじの色に憧れますので

近いうちに必ずお伺いいたします。この羊羹はちょうどいただいたものです。紙の代わ

りに(?)。

 

   梅雨(さみだれ)の降る日、亡くなった人を弔う文

 今日も降りやまない空の下でいかがお過ごしでしょうか。お袖が乾かない(涙が止ま

らない)ことと思いやられて、どうしておられるかと雨傘を開きたいのですが、あまり

に度々伺っては、お召使いのお手数を煩わせることとなり、かえって涙の種になりはし

ないかと思い返してお伺いせず、人に頼んでお文を差し上げることにしました。昨日も

申し上げましたが、お嘆きは仕方がありませんが悲しみのためにお心を痛めてご病気に

でもなっては、お亡くなりになったお母様が喜ぶとは思えません。ご兄弟様方もみな

ご幼少でいらっしゃいますのでこれからは家内の法事などを一身に引き受け、ご教育

などもお母様に代わって数々お勤めしなければなりませんのですから、つらさに負けて

いる場合ではありません。あなた様がお弱りになってはお子様方やお父上様のお世話を

誰がなさるのですか。よくお考え下さい、昨日おっしゃったように何をする張り合いも

ないなどと泣き崩れてばかりはいられません。お勘さんや与吉の両方が奥様がお亡くな

りになってからお嬢様が心配だと昨日も泣いておりました。くれぐれもお父上様ご兄弟

様のために、また亡きお母上のお考えを推し量ってお心を強く持ってくださいますよう

願っております。そうはいっても今日はお母様のご命日ですので面影がどれほど恋しい

ことでしょう。今朝は私もお墓参りを、とても早くに行ったつもりでしたがすでに新し

いお花がたくさん供えてありました。あなた様に一足遅れてしまいましたのでこれは

庭で生ったいつもの枇杷ですが、ご仏前にお供えください。何事も雨雲にかき曇って

いるようです。

   同じ返事

 昨日来てくださいました時は私が愚痴ばかり繰り返していたのにお諫めもせず、我儘

な涙をお見せしたことが恥ずかしいです。本当におっしゃる通りで、弟たちはまだ小さ

く、父はご存じのように無頓着ですので、母にかなわないまでも母代わりとなる心得も

なく、このように悲しんでばかりいてはどうしようもありません。とはいえ途方に暮れ

ている心のほどをお察しください。母がいた頃は学校から帰れば二階の部屋に籠って

縫物をしてばかり、その他のことは指図を受けて動いていたので昨日今日急に教えて

くれる人がいなくなってしまってどうたらいいのか、あれはどうしますかなどと女中

聞かれる度にいちいち困り、その度ごとに亡くなった人が恋しく、返らぬことを嘆いて

います。しかし昨日くれぐれお諫めくださいましたこと、とりわけ今日はお使いを通じ

てねんごろにおっしゃってくださいましたことは誠にその通りだと思い当たりますので

これからは心弱いばかりではいられません。心の限り弟たちのために尽くすべきだと

思いますが、ご存じの通りわきまえがなく、わからないことがたくさんありますので、

おうるさいこととと思いますがいろいろ教えてくださいますようお願いいたします。

 今朝はこの雨の中、お詣りくださったとのこと、深いお情けに亡き人もどれだけ喜ん

だことかと身に沁みてありがたく、いただいた枇杷はさっそく仏前にお供えしました。

これはいつかもいただいて、お宅のお庭に生ったものだと(母が)繰り返し申しており

ましたことが忘れられません。まだあまり正気ではないようです。

 

   暑中に帰省が遅れたことを故郷の親に告げる文

 折からの暑さに悪い病が度々流行っております。私の身の上をさまざまにご心配くだ

さってしばしばのお便りがありがたく、仰せの養生のことはよく守り、食べ物やほかの

お心づけのおかげか幸い私の身には何事もなく、人が暑いと苦しんでいる中それほどに

も思わずに健やかでおりますのでご安心ください。かねがねお待ちの暑中休暇は後一週

間先となり、その日に直ちに出立する心構えでしたが、隣村から来ている同級生で必ず

同行しようと話していた者がいて、その人の買い物(土産)の都合がつかずに帰国が

少し遅れるということで、昨日今日の一日は十年のように長く、早く早くおひざ元に

参りたいとばかり思っていましたがそれも我儘に思われ、友人の手前少し恥ずかしくも

あるので決めた日よりも四日ほど遅れます。停車場に人をよこしてくださるとのことで

したのでお心に留めてください。到着は暮れ方になると思います。お菓子だけは私が

持参いたしますが、親類の方々に差し上げるお土産物は今日行李にして送りましたので

お受け取りいただき、取り置いてくださいますようお願いいたします。

   同じ返事母より

 郵便は昨夜届きました。いつかと待ち遠しかった暑中休暇に、連れ立って帰るお友達

のご都合で少し遅れるとのこと、お付き合いですからそれはお待ちしてあげるのが当然

なのですが、鎮守のご祭礼が今年は例年と違いにぎやかにという趣向で、明後日から五

日間執り行われることになったので、それを見られないのはいかにも惜しいことです。

田舎は田舎の風情がありますから兄弟たち一同これをお前へのごちそうの一つに数えて

いたので、お文を見て大層力を落としました。隣村から来るのなら同じ連の祭りなので

その人のお宅でもさぞさぞお待ちしていることでしょう。一応お話ししておきますの

で、できることならせめて二日でも早く来るよう、父からはそのようなことを言うには

及ばないと叱られましたが、母はその折に一緒に親戚参りをするつもりでいましたので

右のお願い。ともかくこの暑さに障りのないよう、特に道中は気をつけてください。

 

   人の新盆に

 待たぬ年月の経つのは早く、今年もいつか芋がらを売る声を大路に聞くようになりま

した。窓に釣った提灯の薄青い色を見るにつけ悲しいことが思い出されます。まして

あなたはどのように過ごしているのか思いやられます。昨年のこの頃はまだお妹様の病

も出ておらず、私の家の裏の蓮池に花を折りにいらして、浮葉の露のようなものを取ろ

うと片手を岸の小松にかけて洋傘を差し伸べたところ、お袂から紅のはんけちが落ちて

水に浮かんだ様子など今のことのように思い出されるのに、今年は門火に迎えられ、

精霊棚の上にみそはぎの花を手向けられるようになったことを思うと、ただ夢のようで

す。長くはありませんでしたがお二人きりのご生活でお睦まじく、よそ眼にもうらやま

しいようでいらしたのに、さぞかし思い出がさまざまおありになって(心が)慰まらな

いことと存じます。思いが増すのではないかとためらいながら、思い出の蓮の花を贈り

ますのでお供えくださいましたらありがたいです。籠の中のりんごは今朝初めて木から

採ったものです。これもご覧になっていただきたく、お供えください。

   同じ返事

 暮れゆく空を眺めていれば天から降りてくるのではないかと恋忍んでいるところに、

よく思い出していただいて、仏のためにと数々のお供え物をありがとうございました。

花もりんごも生きている時に見せたならどんなに喜んで、これは私にくださったもの

だから姉さまには手も触れさせませんと我儘を言ったでしょうが、もういい争いもでき

なくなって真菰の上に据えられ、香の煙がかすめる写真の面影の愛しいことは言いよう

もなく、このようにはかない一生だと知っていたら難しいお小言など言わなければよか

ったと返らぬことを考えます。年よりも(心が)若く、思いやりなど少しもない子で

したのでよいお友達も少なく、今日の祭礼に思い出してくださる人などいないと思って

いましたがこれほど忘れ難く思ってくださるありがたさに涙がこぼれ、お礼を申し上げ

ます。そのうちお目にかかってまた。

 

   暑中見舞いの文

 今日は寒暖計が九十度(32℃)を越しました。いかがおしのぎしていますでしょう

か。手水の水もお湯に沸き、草木の色も思いなしか枯れしぼんでいるような暑さ。氷の

柱でも立てたらとばかり思われます。あなた様は広々と(したお宅で)お暮しで、天井

も高いですからそれほどにはお思いでないかもしれませんが、ご様子をお尋ねしたく、

暑中伺いにお印ばかり、葛そうめんの一束をご覧に入れます。近所の菓子屋で調えたも

のですので出来などどうでしょうか、砂糖を一瓶添えて献上いたします。折からの暑さ

ですのでくれぐれもおいたわりくださいますよう。

   同じ返事

 暑さお見舞いとして好物の品を賜りまして、ありがとうございます。幸い家ではみな

特別障りもなく、ただ暑い暑いと言ってばかりで全く恐縮ですが、ご安心くださいます

よう。多少は広いようですが西東を向いた家ですので朝夕はとても厳しいものです。

どちらにでも避暑に思い立つことがありましたらお供をお申し付けくださいますよう、

お礼と共に右のお願い申し上げます。

 

   納涼の筵から友の元に

 月は今昇ろうとしていますのに、この筵にもう一つの光を添えられないのは悔しく、

昼は暑さに負けておいでがないのは道理ですが、この涼風に乗って大した距離でもない

道をいらっしゃらないとは、何事があったのかと壁に背けた燈火の下で走り書きして

います。今日の会はお知らせしたように面倒だった上、殿上人までいらしたので幹事を

承ったもの同士大汗をかき、さまざまな気遣いで苦しがっておりました。散会したのは

午後五時頃で、人々があの家を出て辻で車の引き別れをしようとした時、例の子爵の

奥方が「これから気の置けない涼みどころへ、我が家にお寄りになりませんか、水を

引き入れてありますし月も大変よい夜になりそうですから」と誘われて、お帰りが気遣

いな姫君や奥方ももうおらず、みな私たちのような老木どもですから、ではお高殿を

しばしお借りしますと、そこからこちらに車を入れさせました。ご主人様の琴の音に

庭の松風が吹き通う、ゆかしい夜の様子を見せられないのは悔しいことです。このよう

な時によい歌が出てくるものなのにこの席の人々は口が重いものですから、車座になっ

ても三十一文字が詠えません。早くお出ましになっていつもの優しいお言葉を承りた

く、かねがねご存じの心安いご主人様ですから何も難しく思わずに、這っても来られ

近さなので隔ての垣根を高くしないでくださいませ。

   同じ返事

 中川の御宿りではありませんが、怪しげな方違えでしょうか。我が家を音なくお車で

通りすぎて、お隣と言ってもよい子爵様のお屋敷で納涼の筵を催しておられるとは。

せめてものお情けに松風にお琴の音が流れてきて、恨めしさも忘れてありがたく、お使

いと共に出かけたく思うのですが、幼い者が今寝付くところで乳を離さずにむづかって

泣いておりますのでもう少し面倒を見て、遅くならなければお伺いいたします。いただ

きものですが果物一籠を車座の中にお使いをおわずらわせいたします。伺うことができ

ましたらよろしくお願いいたします。ご主人様にも(その旨)お伝えくださいますよ

う、取り急ぎお返事のみ。

 

   朝顔を見に誘う文

 昨年も一緒に行きました入谷の朝顔は今頃ではなかったかと思い出します。あの明け

方に車を連ねて上野の下を過ぎる頃、ようやく空が明るくなって道端のねむの花が眠そ

うに見えて風情があるとたわむれに話し合ったことが忘れられず、恋しいのです。ぜひ

今年も行きませんか。例の、好奇心旺盛な中の兄がこの話を進めるよう言い出しました

ので、帰り道はどれほどごちそうしてくれることか、以前から吹聴しておりましたもの

ね。ご同意いただけましたら明日の早朝不忍池の蓮を見がてら行きたいのですが、私一

人では連れて行ってくれないと言うので、なにとぞご都合をつけてよい返事を下さい。

お母様からお許しが出ましたら今夜から家にいらしてご一泊してくださいますようお願

いいたします。

   同じ返事

 明日の朝入谷へとのお誘い、どうしてお断りいたしましょうか。母も大喜びでお受け

しなさいとのことですので、いつも通り甘えさせていただきます。姉もなく、手を引い

て歩く弟も持たない野中の一本杉ですので、どこかへ行きたいと思っても一人ではいけ

ずに悲しんでいますが、いつも思いやってくださってこのようにお供に加えていただく

ありがたさ、お兄様にもお礼をよろしくお伝えください。お言葉に甘えて今日の夕方か

らお伺いしますので、ごちそう(などのご心配)より、お気遣いなさらないでください

ましたら何よりです。