通俗書簡文 二十一

 うぇーい!!当分無理かと思っていた本を手に入れた!ついでにジェーン・エア

文庫本で買って今はそれを読んでいる。10年おきくらいに読み直しているが、本当に

文学少女の夢物語だなあと思う。ヘレン・バーンズが死ぬところではつい号泣してしま

うがイングラム嬢への悪口が過ぎるのが気になる。あと吉田健一訳はセント・ジョンが

シン・ジンなのはどういうわけなのか。ネイティブ読み?にしても華僑ですかって感じ

ギリシャ型の美男子に思えない。後半もいろいろ都合がよすぎておばさんにはもう

魅力がなくなったのでこれが最後だな…。

 

 やっとヴィレットに手をつけるとなんだかおもしろくない。ジェーン・エアと変わり

なく、不美人な私と私の理解者は高潔で知的(または善良)なこっち側。あっち側の

方々は美醜どちらにせよ愚かか性悪。加えて国境を越えたすごい偶然来た!この分では

主人公は超ハンサム(プラス頭脳性格完璧だが美人に弱いというのが新設定かと思った

ロチェスター氏も若い頃はそうだったな)と結ばれるかと思っていたら超美人が現れ

た。賢い娘であるし過去の因縁もあるのでこっち側の人になるからどうなるかとは思う

が、説明がましくくどくどしいので展開を追うだけになりそうだ。つつましいアン・

ブロンテに期待するしかない。恋よりも夢よりも当時のみじめな家庭教師の心を味わい

たいのだ。何の望みもないおばさんは自分以上の辛苦のみ受け入れる。

   

   山里にいる乳母に

 何かあったわけではありませんが恋しいのでお文を出します。この一日二日、風が

ことのほか身にしみるのは近い山で雪が降っているからではないかと人が申し合ってい

るのを聞くと、もしかするとその辺りから見渡せる何某山が白くなって、その麓の薄の

原がうら枯れるころにはいつものあなたの持病のりうまちすが起こるだろうと、とても

物思いします。最近のことを詳しく教えてください。こちらでは父母から兄弟たち、私

も変わることなく学校に行き、針仕事の稽古にも精を出しておりますのでなにとぞご案

じになりませんよう、もう重ね物や袴の仕立てもできるようになりました。昨年丹精に

糸を引いて作ってくださいました銘仙を着物に仕立てて今日初めて着ましたところ、縞

の柄がよく似合うと家中から褒められてとても嬉しく、お礼を厚く申します。弟たちが

うらやんで姉様はよい乳母を持ってこのような物さえもらっているのに、僕たちは母様

の乳で育ったから何もくれる人がなく悔しいなどと言い、そのかわり姉様は継子育ちだ

から父上や母様は可愛がらないのだなどと負け惜しみを申すので、そうよ、私には田舎

にもう一人親があるのだと威張っております。春になったらまたそちらに遊びに行きた

く、あまり度々では与平殿に気の毒ですが、あなたからもお詫びを言って行かせてくだ

さい。与之吉殿と一緒に小川の魚釣りをするのがとても楽しみです。この前行った時に

あの子がもう少し大きくなったら東京に出して商人の修業をさせたいとおっしゃってい

ましたが、数えで十二にもなったので年期(奉公)というものにお出しするつもりなら

あまり年がいかないうちに勤めた方がよいと人の話に聞きます。商いは時計か呉服かと

与平殿は言っておりましたが、時計屋は私は嬉しくありません。呉服屋ならばゆくゆく

いろいろのことを頼むのに都合がいいのでなるべくその方がいいと願っております。

私がこう言ったとはお話しにならないでほしいのですが、これはただふと思ったことを

打ち明けるだけです。与平殿に聞かれたらまた東京のねね様がわがままを言ってきたと

笑われるでしょうが、もう今日この頃の私は他人に向かって昔のようにわがままを申す

まいという覚悟ですのでねね様の名は恥ずかしいことです。ともあれ与之吉殿にはよく

言い含めて東京に行くのは嫌だと申されないようにしたく、このほど絶えてご清書も見

せてくださらないのはどうしたのでしょうか。学校を通うのを止めたのではないでしょ

うから作文を約束の通り時々は見せてください。ほかの人には夢にも手をつけさせず、

私一人が見てご褒美は必ずお送りしますから。さてこの次行くときのお土産は何にしま

しょう。あなたからのご注文や与之吉殿の望みの品を前もって一筆お申し出ください。

与平殿には瓶詰ものと決めてあります。あれさえ持っていけばいつも目尻にしわを嬉し

く寄せて、お酒を召す人の好みは同じようなものだと見え今もなお手作りのあんな塩辛

いものに舌打ちをしているのでしょうか。頭のためには大毒ではないかとこちらの人

たちは危ながっていますが長く馴れているから問題もなく、それについてはあなたは

少しでも酒の気を嫌いますが、血の巡りが悪くて折々りうまちすが起こるのですから、

日頃から葡萄酒を少し用いるとよいとのこと、次行くときに試しに持っていきますので

努力して飲んでみてください。言おうと思うことが大変多く、体裁も整わないのでまだ

もう少しと首をかしげていると、姉さまはいつまで文を書くのだろうと弟たち(の中

に)はひっくり返って笑っている者もあれば、筆を奪って逃げる者もいますのであまり

に興ざめしてまた次にと、書きかけたままのようですが止めます。最近のご様子をお返

事くださいましたら嬉しいです。

   同じ返事

 まずは旦那様、奥様お始めお嬢様から若様方にもご機嫌よく(お暮し)とのことで、

お文を捧げ持ってお喜び申し上げます。その夕方、与之吉はふと思い出したように東京

の嬢様はいつごろお出でになるのだろう、あの山の雪が消えてこちらの田圃で芹を摘む

ようにならなければお出でにならないのだろうか。僕は待ち遠しくて耐え難いけれど、

それまでに上手に書けるように、つっかえずに読めるようになって嬢様を驚かせること

が楽しみだと申しておりましたところに、火を灯す頃になってお文が参り、春になった

らお出で下さるとのこと、与之吉は躍り上がって僕が言い当てたと喜んでおります。

春になったらいろいろお土産を持ってあの田圃の向こうから遠回りに車に乗って来るの

だ、僕が表に駆け出して両手を上げて差し招くと、お嬢様は車の上でいやいやとお首を

振るから、あぜ道を伝って走って行けばすぐに車の前に行くので一緒に乗せてほしいと

言ったらお嬢様は僕を抱き上げてお膝の上に乗せてくれるだろう。そして車は三太郎や

勘八たちの垣根の前を矢のように走るので彼らは驚き羨ましがって駆け出してきて僕ら

を見るに違いない。その時の嬉しさはどれほどだろうとらちもないことを言って楽しみ

にし、春は春はと言うので、そう言っても春は後三月も先ですよと申せば弱り切って舌

打ちをし、なぜ嬢様はそのように気が長いのだ、せっかくのうまいころ柿もなくなって

しまうではないかと萎れ返っております。このようにまだ丸々の子供なので以前申し上

げたご奉公が勤まるものかどうか本当におぼつかなく、私は決して一人っ子だから甘や

かそうというわけではなく、親父も最近はそのことを言わなくなり、せめて小学校を

高等まで終わらせてから何かに志させようかと言っております。いずれにせよ行くのは

東京の地と決めておりますので、何かとお世話していただくのはお宅様となります。

旦那様や奥様へお嬢様からもよろしく申し上げて、与之吉を引き立ててくださいますよ

うお願いいたします。私は体が弱く、心配はこのことだけです。本当に差し障りが多く

て申し上げるのもいかがとは思いますがお嬢様を我が子のように思っておりますので、

私がいなくなってもこの子の面倒を見てくださいますことを頼みとし、それだけが心の

安らぎです。年ごとに病が増え、若い時に尽くした心労の名残だろうと人は言います

がそういうこともあるのでしょうか。ご心配いただきましたりうまちすは相変わらず

強く起こって十日ほど前から立ち居がかなわなくなり、ひどく痩せたので人が気遣って

くださいます。葡萄酒のことはありがたい仰せで、いかにもあれは薬になるとのこと、

飲んでみたいと思いながらももったいないようで、ただ過ごしておりました。郡長様の

ようなご隠居ならばともかく、私のようなものが薬に用いるなど恐れがましいことで

す。親父の濁り酒、これこそ骨休めの楽しみと夜毎に膳の上に徳利を乗せて嬉しそうに

舌打ちをしております。都の人なら頭に障りもありましょうが、ここで鋤鍬を取って

働く者にはそうでもないようです。お嬢様のお文に瓶詰のことがありましたよと申すと

そうかそうかと額に手をやって、これも与之吉と同じくお出ではいつのことかと勝手な

ことを言います。親父の迷惑を推し量るなどとお断りでしたが、この人にそのような

よそよそしいことを申すなどとは。土に手をついておいでをお待ちしています。(お嬢

様の)お志を世間様にも鼻高く思っているのですよ。まだ冬のさなかで大変寒いので

ご覧に入れるものもありませんし、大事なお体に風邪を引かせるなど恐れ多いことです

から季節がよろしくなりましたら必ずお越しをお願いします。親父も出迎えに行こうか

と言っております。ことごとしくお土産などのお願いはありません。ただお顔を見せて

くださることが何よりも私どもには賜物なのです。その上学校やお針仕事などいろいろ

の芸にお心を入れていらっしゃるとのこと、人の褒め者におなりになってくださいま

せ。ご両親様へこちらが自慢申すことはできませんが、いただくすべての物よりもその

ことが願わしいのです。お文に与之吉は清書をなぜ見せないのかとありましたが、今ま

であまりにみっともない書き方をしていましたので恥ずかしくてご覧に入れかねるとの

ことです。次の週から一心に書いて郵便でお送りする、手紙も自ら書くと威張っており

ますのでご覧になって十分にお小言をお願いいたします。その折に私も書き添えます。

あなた様からのお文を何と長いと笑っておりましたら、こちらの方がもっと細かくした

ためてしまいましたがまだまだ(言いたいことが)余っております。どうしたら言葉が

尽きるのでしょう、ただお会いできたらと思うばかりです。最後になって恐れ入ります

が、ご両親様お始め(皆様に)よろしくお伝え下さいますようお願いいたします。

   

   死去を弔う文

 お父上様のご容体がにわかにお変わりになり、この明け方にお隠れになったとのこと

でただただ驚き、夢ではないかと思われます。先日お見舞いに行った時にはお気持ちも

よろしく、お食事もようやく進むようになったと承りましたので、では遠からずご全快

になることだろうと嬉しく存じておりましたのにどうしたことでしょう、十日も経たず

にこんなことになるとは。思えばお仲直り(死期が近づいた時一時的によくなること)

と申すのでしょうか、そうならばもう一度お目にかからなかったことが繰り返し嘆かれ

ます。帯すら解かずに明け暮れ付き添っていたわっておられたご孝養の甲斐もなく、

あなた様がお嘆きになることがとてもおいたわしいです。しかしながら十分にお手当て

を尽くした後のことですから、これを憂き世と思って悲しみにお体を損ねませんようし

てください。今はただそれだけが亡きお方への孝行です。ろうそく一箱ご霊前にお供え

くださいますよう(お使いに)持たせます。私は今夜お通夜に伺いますが、とりあえず

お悔やみまで。

   同じ返事

 父の病中より一方ならぬご心配をいただき、しばしばお見舞いくださいましたことが

ありがたく、必ず治ってお礼をしたいと当人も申し続けておりましたが、甲斐のないこ

とになり、それだけを名残惜しく存じます。年に足りないということもありませんが、

まだ我々兄弟は何をしたということもなく、子の努めるべき片鱗さえ見せられないうち

にこうなったことは飽かず情けなく思われます。仰せの通り、しばらくの仲直りを全快

の印だと喜んでいた心浅さ、言い出せば限りもないですが、還らないことを今さら嘆い

ても仏のためにとても悪いとのお諫め、実にと受け止めて思い返しております。お志の

一箱ありがたく直ちにお供えいたしました。何かと取り乱してしまいお礼も詳しくも

述べられませんがお許しくださいませ。