ベッツィーとテイシイ その後

 20年ほど前に出会って愛読し、先が知りたくて原本を入手して10年以上経過…。やっ

と手をつけようと久しぶりに読んだら、やはり最後に新しいお友達ができるところで

涙。このティブちゃんが魅力的でその先が知りたかったのだが、その後が出ないので

満を持して?読むために訳してみる。外国語なので今までに増して誤読や珍訳が多く

なることでしょう。

 

   エクストローム夫人に物乞いをした日

 ベッツィーとテイシイとティブは三人の小さい女の子の友達です。三人はけんかを

したことがありません。最初にベッツィーとテイシイが友達になったのです。二人は仲

がよくてけんかなどしたことがありませんでした。それからティブが近くに引っ越して

きて三人は一緒に遊ぶようになりました。大きな子たちは言いました。「悪いことに

なったわね。ベッツィー・レイとテイシイ・ケリーはいつもとても仲よくしていたし、

小さな女の子は二人ならいつもいい子で遊べるけれど、三人目が表れたとなると…」と

彼らは黙ってしまいましたが、「きっとトラブルになるわ」と言っているようでした。

 そしてみんなそれを待ち望んでいましたが、ベッツィーとテイシイとティブの間には

何も起こりませんでした。二人でいた時のように三人はけんかをしませんでした。時々

ジュリアとケイテイ…ベッツィーとテイシイのお姉さんたちでいばるのです…とけんか

することはありました。ベッツィーとテイシイとティブはいばられることが嫌いでした

から。

 ベッツィーとテイシイは岡通りに住んでいました。その通りはまっすぐ上がって緑の

岡にぶつかって終わるのです。小さな黄色い家にレイ一家が住んでいて、それは通りの

最後にあるのでした。そしてその向かいにある建て増しされてでこぼこした白い家が

ケリー一家の住む家で、やはり道のあちら側の最後にあります。二軒の家は道の終わり

にあり、その後ろには岡があるのでした。

 ティブは岡通りには住んでいません。彼女は喜び通りに住んでいました。ベッツィー

とテイシイが住むところからティブの家に行こうとしたら、1区画下りて1区画上がらな

くてはいけません。(2つ目の区画では空地を通ります。)ティブはチョコレート色の

家に住んでいます。それはベッツィーとテイシイが今まで行ったことがないくらい美し

い家で、前側と後ろ側に階段が2か所あって、塔があって、入り口のドアには色ガラス

が入っているのです。

 

 ティブはベッツィーとテイシイと同じ年で8歳です。みんなが6歳の時にティブは深い

谷町に来たのです。そして今は8歳になりました。テイシイが一番背が高く、長い赤毛

を巻き髪にして、そばかすで細い足をしています。まだよく知らない人にはテイシイは

恥ずかしがります。一番背が低いのはティブです。小さくて優美で、まん丸い青い目を

して、ふわふわした金髪で、絵本で見る妖精のようです。あれ以外…もちろん羽を持っ

ていませんでしたから。ベッツィーは中くらいで、丸々とした足をして、茶色の三つ

編みが耳から突き出しています。彼女が笑うと歯の真ん中がすいているのが見えるので

すが、ベッツィーはいつだって笑っているのでした。

 ベッツィーが朝ドアを開けて飛び出してくると、もうにこにこしています。どうして

かといえば彼女とテイシイとティブでこれからするおもしろい計画があるからです。

ベッツィーは何をするか考え出すことが大好きで、テイシイとティブはそれをみんなで

することが大好きでした。

 ある朝ベッツィーが自分の家を飛び出すと、ちょうどテイシイが彼女の家から飛び

出してきたところでした。二人は道の真ん中で出会うと岡通りの最後のところにある

ベンチへと走って行きました。そこからは通りを見下ろすことができ、いつもそこで

ティブを待つのです。

 ベッツィーとテイシイはティブが来たらすぐに遊ぼうと待ち構えています。ベッツィ

ーのお母さんはやせ形で敏捷なので、家の手伝いがそうはいらないのです。テイシイの

お母さんはテイシイのほかに十人の子供がいるので、テイシイにすることはそうもない

のです。ティブのお母さんはお手伝いの女の子を雇っていましたが、子供は働き方を

知るべきだと思っていましたから、ティブも同じように働かなければなりませんでし

た。ティブは椅子の足を拭いたり、銀器を磨いたり、料理や裁縫を習っていました。

 ベッツィーとテイシイは今日は待つことを気にしませんでした。今は六月で、世界中

にばらの香りがただよい、草の生い茂った岡の上にある太陽は金の粉を振りかけたよう

にきらきらしているのですから。

「今日は何をするの?」とテイシイは聞きました。

「大きな岡に登りましょうよ」とベッツィーは答えました。

大きな岡は岡通りの終わりにある岡ではありません。それは岡通りの岡といい、大きな

岡はベッツィーの家の後ろにあるのです。その頂上には白い家がありました。

「ピクニックするの?」とテイシイは聞きました。

「そうしたいのだけれど」ベッツィーは答えました。「朝ご飯の後にピクニックしても

いいかって聞くよりすぐ行きたいな」

「もし今聞きに帰ったら」テイシイは言いました。「朝ご飯の手伝いをしなくちゃいけ

なくなりそう」

「帰らない方がいいね」ベッツィーは言いました。「でも岡の上に着くまでにおなかが

すきそう」と言ってしばらく考えていました。「私たち物乞いのふりをしなくちゃいけ

ないかもね」

「それどういうこと?」とテイシイは聞きました。彼女の青い目がきらきらし始めまし

た。

「髪をくしゃくしゃにして、服を汚して、何か食べ物を下さいってあの白い家で聞くの

よ」

「ええっ!ええっ!」と叫んで、テイシイはそれしか言うことができませんでした。

 ちょうどその時ティブが走って来ました。彼女は大変清潔な、糊のきいたピンクの

ドレスを着ていましたので、ベッツィーは物乞いにはならない方がよさそうだと思いま

した。

「私たちこれから何するの?」とティブが聞きました。

「大きな岡を登るのよ」とベッツィーは言いました。「もちろん聞かなければいけない

けれど」

 三人は8歳で、まだ許しを得ないとビッグヒルに登ってはいけないのでした。ベッツ

ィーとテイシイはです。ティブのお母さんは二人が許されているところなら行っていい

と言っていました。そのたびに許しをもらいに走って帰るには遠すぎますから。

 ベッツィーとテイシイはポールに…ポールはテイシイの弟です…二人の家に行って今

行っていいか聞いてくるように頼みました。ポールが走ってテイシイの家に入り、ベッ

ツィーの家に入って走って戻り、行ってもよいという言葉を持って来たので、ベッツィ

ーとテイシイとティブは大きな岡に向かって歩き始めました。

 ジュリアが音楽の授業の練習をしていて、三人が家の前を通ると彼女が奏でる音が

聞こえてきました。ジュリアは楽しんでいるようです。

「私は今日はピアノを弾きたいとは思わないわ」ベッツィーは言いました。

「私も」とテイシイが言い、「私も」ティブも言ったあと「もちろん」と言い足しまし

た。「私たち弾けないけどね」

 ベッツィーもテイシイもそういうことを指摘したりはしないのですが、ティブはいつ

だって指摘するのです。それでも二人はティブが好きでした。

「すぐに弾けるようになるよ、もしそうしようと思ったらね」とベッツィーは言いまし

た。「私お箸なら叩けるし」

 三人は尾根まで来ました。そこには野ばらの花が咲いていたので三人は立ち止まって

そのにおいをかぎました。そして今度来たら実を取ることができるさんざしの木の横を

通りました。さんざしの木は今は緑の小さな固い実をたくさんつけています。道の片側

にはたくさんの木があって、草深く、花がたくさん咲いていました。反対側は牧草地で

囲いがあり、ウィリアムさんの牛が中にいます。

 とうとう三人は岡の頂上に着きました。そこからは岡通りの家の屋根を見下ろすこと

ができます。三人が通っている学校も、ティブのチョコレート色の家も。深い谷の町の

の向こうの、大風車町へ行く道まで見ることができるのです。谷の一番底には銀色の

リボンが見えます。それは川でした。

 岡の頂上は平らでどんぐりの木があちこちにあります。そして白い家が真ん中にあり

ました。小さな家で前に花の庭があり、エクストロームという名前の人たちが住んでい

るのです。エクストロームさんの家の前には峡谷があり、そこでは水が湧いて小川が

流れています。ベッツィーとテイシイとティブは峡谷を下りたことがありますが、ジュ

リアとケイテイと一緒だった時です。

「谷を下りてみようよ」とベッツィーが言い、三人は手をつなぎました。

 谷への道はエクストロームさんの裏庭にあります。ベッツィーとテイシイとティブは

エクストロームさんを知りませんが、丘を上がったり下りたりする人たちを見たことが

あります。今はどのエクストロームさんも見当たりません。いるのは親しげな吠え方を

している犬だけです。三人は仲よくコッコッと鳴いているめんどりたちを見ました。

そして扉の開いた納屋の前を通ると牛がいました。三人は台所前の庭を通って峡谷の縁

まで来ました。

 急で曲がりくねった小道が峡谷に向かっています。岡は木々に覆われています。大き

な木や実のなる木、灰色の古い木や明るい緑の若い木があります。下の草むらには赤や

黄色のおだまきの花がたくさん咲いています。

 ベッツィーとテイシイとティブは気をつけながら、花を摘みつつ降りていきました。

 下りきったところで小川の音が聞えました。そして一番底に着くと、三人は石の上に

駆け寄りました。四枚の石に囲まれて水が湧いているのが見えたのです。そこにかがん

で水を飲もうとしたら水が顔にぴしゃっとかかるのです。三人は水を飲みました。とて

もおいしかったのですが、よくないことは食べるものがどこにもないことです。

「おなかすいたなあ」とテイシイが言いました。

「私も」とティブが言いました。

「おだまきの花の蜜を吸おうよ」とベッツィーは言いました。三人は持っているだけの

花の蜜を吸いましたがまだまだおなかがすいています。

 ベッツィーは辺りを見回すと「このメープルの木にはシロップがあるのに」と言いま

した。「もしナイフを持って来ていたら穴をあけて取ることができたのになあ」

「そしたら火を焚いてパンケーキを焼かなきゃ」とテイシイが言いました。二人は飛び

跳ねてナイフを探し始めましたがティブは二人を止めて、

「パンケーキには小麦粉がいるのよ」と言いました。彼女は料理ができるので知ってい

るのです。

「ああ、おなかがすいた」とテイシイが言いました。「どこへ行ったら何か食べられる

ものが手に入るのかなあ」そしてベッツィーをじっと見ました。

ベッツィーはテイシイがさっき話した物乞いのことを考えていることが分かりました。

ベッツィーもそうしたいのですが言わなかったのです。しかし毎分ごとにおなかがすい

てゆくのでとうとう大きな声で重要そうに言いました。

「物乞いしなければいけないかもね」

「なんて言ったの?」とティブが聞きました。

「髪をくしゃくしゃにして、服を汚して、食べるものが必要なふりをするのよ」

「食べるものは必要なのだから」とテイシイは言いました。「そのふりをすることは

ないんじゃない?」

「お母さんは私が服を汚すことが好きじゃないの」とティブは言いました。ということ

は彼女のお母さんは好きでなくてもティブはそうでもないということでしょう。

「お母さんもあなたが飢え死にするよりはドレスを汚す方を選ぶでしょうね」とベッツ

ィーは言いました。「私たちこの峡谷の底で飢え死にするかもしれないのよ」

「そうなるの?」とティブ。

「私そろそろ飢え死にしかけている気がする」ベッツィーは答えました。

「私も」とテイシイも言いました。「弱ってきた気がする」

 三人は泉がふつふつと流れ出る音を聞いていました。

「もしみんなが汚れていたら、お母さんたちだってどうしようもないことがあったと

思うんじゃない」とベッツィーは言いました。そして三人はお互いを汚し始めました。

 お互いを汚し合うことはとてもおもしろいことでした。あまりにおもしろすぎておな

かがすいていることも忘れるほどでした。ベッツィーのおさげを解き、テイシイの巻き

髪をもつれさせ、ティブのふわふわ髪をタンポポの綿毛のように見えるまで逆立てまし

た。それから三人は泥をお互いにくっつけました。泥をほっぺに、鼻に、それから手に

も足にも。小川には十分に泥があったので三人も十分にくっつけることができました。

三人はドレスにも泥をのせて手のひらでこすりつけました。

 それが終わって三人は峡谷を登り始めました。

「誰が食べ物を下さいって聞くの?」とテイシイが聞きました。

「ティブ」とベッツィーがきっぱりと言いました。「だってティブが一番小さいから。

でもあなたと私がその横に並んだら、私たちも彼女と同じくらい責任があるのよ」

「そう思う」とティブは言いました。(↑理解不能なので直訳)

 三人がエクストロームさんの台所前の庭まで来ると、あの犬がまた吠え出しました。

犬はさっき三人が下りて行く時とは違う吠え方をしています。三人の格好が気に入らな

いようです。

 三人が鶏小屋を通ると、鶏が鳴きました。納屋の前を通ると牛も鳴きました。三人が

裏口まで来ると犬はもっと激しく、かみつきそうなくらいに吠えました。

 扉は開いていましたが、網戸だけが蠅を入れないために閉まっていました。そこには

紙テープがぶら下がっていて、扉が開くたびにひらひらして蠅を怖がらせるようになっ

ています。テープの隙間から台所の中に女の人がいるのが見え、ベッツィーは扉を叩き

ました。

 エクストローム夫人が扉へ来ました。やせて小さい人です。黄色い髪をひっ詰めて

お団子にして、細く疲れた顔をしています。彼女はベッツィーとテイシイとティブを

見て、「まあ神様!」と言いました。「どうしたの?なにがあったの?」と夫人はベッ

ツィーをじっと見ました。「あなた、レイさんのところのお子さんね」

「私たちおなかがすいているんです」とティブが言いました。

「そしてケリーさんの」と夫人は続けて今度はテイシイをじっと見ました。

「それからミューラーさんのところのお子さんじゃないかしら?そうじゃない?」と

ティブに聞きました。

「私たちはらぺこなんです」とティブは言いました。

「はらぺこ!」エクストローム夫人は言いました。「それよりもっとあるでしょう、

何があったの?」

「おなかぺこぺこなんです」とティブは言いました。

 ベッツィーとテイシイは何も言いませんでしたが、できるだけおなかがすいている

様子を作って見せました。ベッツィーは手で胃のあたりを押さえ、体をそらせてうめ

き、テイシイはいつもの恥ずかしがりを忘れて口をぱくぱくしました。ぱくぱくしなが

ら奇妙な、おなかがすいているような声まで出しました。

 エクストローム夫人は笑顔になりました。

 彼女は台所の扉を開けて三人を中に入れ、紙ナプキンをわたして座らせました。

 おなかがすいた者にはとてもよい家に来たと、ベッツィーにはすぐにわかりました。

エクストローム夫人はクッキーを焼いていて、それをちょうど出すところだったので

す。とてもいい匂いがするお砂糖をかけたクッキーでした。ベッツィーとテイシイと

ティブはエクストローム夫人がフライ返しでクッキーをお皿に入れていくのを見ていま

した。

 彼女はお皿いっぱいになったクッキーをテーブルの上に置き、「牛乳を持ってくるま

でお待ちなさいね」と言って貯蔵室に向かいました。

 ベッツィーとテイシイとティブはクッキーを見ました。なんて素敵なんでしょう。

 エクストローム夫人が貯蔵室に入っている間に犬が吠え始めましたが、もう怒ってい

るようではありませんでした。最初に扉の前を通った時のように親しげでした。足音が

外に聞こえて、誰かが台所の扉を叩いたのでエクストローム夫人は貯蔵室から急いで

出てきました。

 「ごきげんいかがですか、エクストロームさん」と声がしました。それはジュリアの

声で、ずいぶん大人びていました。11歳にもなっていないのにジュリアはものすごく

大人ぶった話し方ができるのです。「ベッツィーとテイシイとティブをお見かけしませ

んでしたこと?エクストローム夫人」

「私たち三人を探しに来たのです」とケイテイの声もしました。

 ベッツィーは胃をさするのをやめ、テイシイは口を閉じました。ティブは丸い青い目で

どうすればいいのかと二人をかわるがわる見つめています。ベッツィーは言いました。

「走って!」

 台所から表玄関への扉が開いていたので、ベッツィーとテイシイとティブはそこへ

走り出てポーチへ出、3段の階段を飛び降りてお花の庭へ下りました。三人は走って、

走って、走って、大きな岡を走り下りました。

 ジュリアとケイテイが後ろに迫ってきている音がすると思って三人はとても早く走り

ましたが、それは自分たちの足音を勘違いしたのです。三人が岡の下に着くとジュリア

とケイテイはどこにもおらず、見る限り全くいませんでした。

「二人はお家に上がって私たちのクッキーを食べているね」ベッツィーが言いました。

「私をめちゃくちゃにして」とテイシイは言いました。

「私もよ」ティブも言いました。

 三人は息を切らし、あえぎながら足を前に投げ出して座って休みました。

 ベッツィーは泥でしましまになった足を見ていましたがすぐに笑い始めて、

「だけど私たち世界一はらぺこで」と言いました。「世界一泥んこになって物乞いした

んだね」

「すごくおもしろかった」とテイシイは言いました。「いつもみたいにね」

「でもクッキーは食べたかったな」とティブがたんたんと言いました。ティブはいつも

そういう風に言うのです。それでもベッツィーとテイシイはティブが大好きでした。